夢を求めては旅立ちます 下村昭夫   (会報108号 2002年12月)

夢を求めて『本の未来を考える=出版メディアパル』は旅立ちます (会報108号)

下村昭夫

 2002年11月29日で「定年退職」となり,「出版技術講座」(主催:出版労連)の「さようなら講演=本と編集者の世界」を『新しい出発の日』と定め,41年間,勤めたオーム社から旅立ちました.
 愛読誌でもあった月刊雑誌「新電気」と共に歩んだ41年間の本づくりと編集生活.労働組合の自主講座「本の学校=出版技術講座」を通して,次世代に「本づくりの心と技」を伝え続けた22年間でした.「心おきなく,ペンを置く」ことが出来ました.
 今後のライフプランは「真っ白」で,何も決まっていません.暗い世相のように「真っ黒」でなく,夢を追い続け「何でも描ける」という意味である.
 というわけで,当面は,「新しいペンを持ち,自力で出発」することになりました.
 『本の未来を考える=出版メディアパル』という小冊子を通して出版学の研究を続けたいと思い,とりあえずは,『出版レポート』などに発表させていただいた最新のリポートの中から,三つのテーマを選び「創刊準備号」をお届けすることにしました.ご覧いただければ幸いである.(申込先:下村昭夫:送料切手;140円)
 私のホームページ「出版技術講座」も3年が経過し,18000人の方々にご覧いただけました.今後も改善に努力し,出版研究に役に立つ「本の世界」を作り上げたい.
 http://www.syuppan.net/mura_HP/index.html
 「出版技術講座」の役割を一言で言い表すと,「本づくりの心と技を次世代に伝達する講座である」言える.私は,その講座とともに22年間,夢を育み,受講生とともに苦楽を過ごしてきたことになる.
 “おもしろくて為になる”という講談社流.あるいは,“為になっておもしろい”という小学館流. そのどちらの視点に立つとしても,本や雑誌というメディア(媒体)を通して,同時代を生きる人々へのさまざまなメッセージを送り届ける“編集”という仕事の中で私たちは生きている.
 元々,出版という意味は,「パブリッシング=何かを公表する」という意味で,編集という意味は「エディット=何かを生み出す」という意味である.
 たくさんある情報の中から,たった一つのテーマを選んで,著者とともに “本”という紙メディアに託して,未来へのメッセージを送り続けるという視点は,電子パピルスになったとしても同じである.“本”には本の優れた特性があり,電子メディアには “電子メディア”の優れた特性があるわけだから,それぞれの特性を活かした共存共生の時代だといえる.
 紙メディアを使うにせよ,電子メディアを使うにせよ,それは同時代をともに生きる人々の“心と心”を結びつけ合う媒体の一つを選択することに他ならない.
 氾濫する,情報の中から,何を選択し,何を読者に“伝達”してゆくのかという「出版の原点」こそが,今,問われている.