雑誌よ,甦れ――「情報津波」時代のジャーナリズムについて
高橋文夫
3月12日,八木書店において「出版流通研究部会」と「雑誌研究部会」共催で高橋文夫会員による『雑誌を蘇れ―「情報津波」時代のジャーナリズム』が行われた。参加者は,講師を含め会員17名,一般14名,計31名であった。
『月刊現代』『読売ウイークリー』『諸君!』など,かつての人気誌・有力誌の休廃刊が相次いでいる。雑誌全体でも08年に,販売額は前年比4.5%減の約1兆3千億円と,11年連続の前年比割れになった。雑誌は出版販売額のおよそ半分を占めるだけに,及ぼす影響は大きい。しかも雑誌を買うために向かっていた読者の足が書店から遠のけば,書籍の売れ行きにも悪影響が及ぶのは避けられない。雑誌の危機は活字文化全体の危機でもある。
雑誌をどう甦らせるか―。いたずらに上っ面の現象面だけに目を奪われることなく,まず「雑誌」というメディアがそもそもどういうものなのか,とりわけお隣の活字メディアである新聞とはどう異なるのかを吟味する。次いで,そのように規定される雑誌や雑誌読者がいまどういう状況に置かれているのかを洞察する。それらを踏まえて,雑誌不振にどう対処していくべきか,その方法を考究する。
本来,「新聞」が「・早く・正確に・できれば深く」の「客観報道」を旨とする「第3人称のジャーナリズム」であるとすれば,「雑誌」は「・深く・的確に・できれば早く」の「主観編集」を身上とする「第1人称のメディア」である。
そのような雑誌や雑誌読者をいま2つの大きな流れが襲っている。・大量・迅速のインターネットなどのデジタル情報が「津波」のように押し寄せている(=技術的な側面)・「ゲゼル(=ゲゼルシャフト=利益社会)化」が職場や家庭に浸透してきている(=経済・社会的な側面)―である。
第1人称の主観編集メディアである「雑誌」はいまこそ,第3人称の客観報道メディアである「新聞」,検索性・双方向性があり大量・迅速の「デジタルメディア」との差別化をはかるために,読者を細分化し,「専門深掘り情報」の提供を心がけるべきだ。編集者は誌面内容や誌面デザインへの共通の思いや共感により,読者との間で強い「繋(つな)がり」や「絆(きずな)」を持つことが求められる。
その際,雑誌編集にあたっては,「3KG」(企画段階の「仮説・切り口=K」,取材段階の「現場主義=G」,執筆段階の「書き出しの3行=3」)を徹底させ,「5R」(・Report=現場からのオリジナル報道を強化する,・Range=情報提供の対象分野や範囲について発射角度や射程距離を絞り込み,専門度・ニッチ度を高める,・Relief=ゲゼル化が進む世の中にあって,読者に安らぎや癒しの効果をもたらす,・Reconfirm=ディスプレイ上の映像情報を印刷媒体で再認識し再確認する手立てとする,・Rating=定性情報も織り込んだ格付け・レーティング情報を提供する)に十分意を用いる必要がある。
ウェブ時代にあって雑誌は,自らの特性にさらに磨きをかけることで新聞・デジタルメディアとの「棲み分け」をはかり,新たな地平を切り開くことが求められている。
(高橋文夫)