中学校における雑誌教育の実践報告
植田恭子(都留文科大学非常勤講師・元大坂市昭和中学校 指導教諭)
渡辺光輝(お茶の水女子大学附属中学校 国語科教諭)
雑誌作りを小中学校の授業に取り入れることは「主体的・対話的で深い学び」、つまりアクティブラーニングに役立つことが期待できるとの考えに基づき、MIE(雑誌利活用教育)研究部会では、雑誌作り教育の実例報告に積極的に取り組んでいる。ただ、小中学校では実践例が少なく、またその指導法も確立されているのかも明らかではない。従って、過去2回は「小中高でのMIE実践に応用できる、大学での雑誌作り教育」と題して、大学における雑誌編集教育の実践報告を行なってきた。しかし、第3回目となる本報告会では、中学校の国語教育での雑誌作りの実例2例の報告が実現した。
最初に報告を行なった植田恭子氏は、新学習指導要領では学習の基盤となる資質・能力として「情報活用能力」が位置付けられていることを説明。その中で「編集」は情報活用のプロセスにおいて要であり、自己学習行動との関連で考えていくことが重要であるとの見解を示した。その上で「自分」と向き合い、「自己」と対話し、「ものがたり」を自らが編む行為が「編集」であると考えるとし、中学校国語科の単元学習における「編集」に取り組む授業を紹介した。
環境についての情報を収集・活用しながら知り得た情報を蓄積し、粘葉装(二つ折りにした紙の折り部分に糊をつけて重ね合わせて綴じる方法)で環境に関する本を作る。ジグソー法を取り入れたグループで作る「本」についての本の編集。また、「自己を見つめ、自己を表現する」を課題とした中学校3年間の学びを生かしたポートフォリオである電子ブック「わたしの本」の制作の授業。これらの授業の紹介を通じて、これからの時代に必要な力は何であるか、その力をつけるための学びはどのようなものであるかを考え、生徒たちが本を編集、作成する成果を具体的に解説した。
次の報告者、渡辺光輝氏は情報社会において必要な能力である編集力に焦点を当て、中学校国語科での授業を開発、その実践から得られた成果と課題を考察することを目的として行った授業を紹介した。
その授業内容はまず、雑誌編集者への調査から、編集力を「編集方針」と「編集技術」の二層に構造化して整理することから始まる。「編集方針」は発信メディア、想定する読者層、コンテンツ、コストの検討などの発信戦略である。また、「編集技術」はテキストを収集、加工、構成する情報活用技術である。従って「編集力」は、この「編集方針」と「編集技術」が相互作用的に組み合わさったプロデュース力であると位置づけ、指導を行なった。この授業では「編集方針」の形成と「編集技術」の活用のプロセスを支援することに留意したという。グループでインタビューを行い、雑誌を編集するプロセスで、どのような思考やつまずきが見られるかなどについて検討した。その結果「素材」と「テーマ」へのこだわりから起因するジレンマが発生することを確認したことを報告。編集力は、その相克を乗り越える中で培われるのではないかという示唆を得たことが紹介された。
参加者には報告会のあとにオンラインで質問をする時間を設けたが、同時にZoomのチャット機能を利用して質問できるようにした。これにより、両氏の発表中からチャットには、研究が蓄積され、さらに豊富な教育経験に基づいた非常にレベルの高い指導法と教育効果に多くの賛辞と質問が寄せられた。
日 時: 2020年10月22日(木) 午後5時~6時30分 (Zoomによるオンライン開催)
参加者: 18名 (会員5名、一般13名)
(文責:富川淳子)