「書店員特性からみた営業担当者の信頼性に関する研究」 横山仁久 (2018年5月 春季研究発表会)

書店員特性からみた営業担当者の信頼性に関する研究

横山仁久
(首都大学東京 社会科学研究科経営学専攻博士前期課程 修了)

 本研究は首都大学東京経営学研究科博士前期課程の修士学位課題研究である.本研究の目的は,第一に信頼を獲得する営業担当者とはどのような特性を持つのか.第二に顧客の特性によって信頼される営業担当者にどのような違いが見られるのか.以上の2点である.

 上記の研究目的を達成するためにレビューした主な先行研究は以下の3つである.1つは嶋口(1997)の研究で,売り手も買い手もともに問題解決すべきことが何か分からない場合,ワークショップ型営業が有効であるとされた.そして,ワークショップ型営業は顧客からの信頼によって成り立つとされるものである.2つ目は,田村(1999)で,変動の激しい顧客ニーズに対応するには,機動集中型営業が必要であるとする.営業成果をもたらすのは,営業規則に基づく営業活動とそれによる顧客信頼が重要であることを指摘した.この2つはともに営業研究にとって「信頼」が重要なキーワードとなっている.

 本研究にとって最も関連が深い先行研究は3つ目の清宮(2012)である.清宮は,動態的な性格をもつ営業活動では,特定の営業行動類型が常に営業成果をもたらすのではなく,断続的・並列的に状況に応じて有効な営業行動が表出するとする.また検討すべき課題の1つとして,有効な営業活動は,買手の意図と行動志向性によって異なるという仮説を掲げている.この仮説を検証することが,上記の研究目的と繋がっている.また,これまでの営業研究が,信頼される営業について調査をするのに営業担当者を対象としていたのに対し,本研究では営業先の顧客を対象としている点が新たに付加した視点となっている.

 研究方法としては,質問紙による定量調査とインタビューによる定性調査を採用した.質問紙は回答する書店員自身の特性に関する質問5項目と,信頼する営業担当者について尋ねた質問20項目の計25項目で構成されている.質問紙は104名の書店員に向けて郵送で依頼をし,55名の書店員から回答を収集することができた.

 収集したアンケートの信頼する営業担当者について尋ねた20項目についての回答を因子分析した結果,5つの因子を得ることができた.5つの因子をそれぞれ,書店員の「営業基本行動志向」「創発的提案志向」「情報重視志向」「顧客課題解決志向」「積極的行動志向」と名付けた(予稿集p.24表1).次に,書店員自身の特性に関する質問5項目と5つの因子の関係についてt検定を用いて分析を行った.その結果,書店員特性に関する質問と5つの因子の間で関連が強いと考えられる5つの関係性を仮説として抽出することができた(予稿集p.24表2).

 さらに,質問紙調査において立てられた仮説をインタビューによって検証した.インタビューは計5名の書店員に対し,「信頼する書店員とは」をテーマに語ってもらった内容をヒアリングした.その結果,書店員特性と5つの因子の関係のうち,2つの関係性が確からしいことが分かった.それは,「書籍発注に必要な知識は持っている」という書店員特性は,書店員の「創発的提案志向」と相関性が高い.また,「新しい取り組みよりも,これまでの経験を重視する」という書店員特性は,「営業基本行動志向」と相関性が高い.以上の2点が本研究で得られた成果である.

 今後の研究課題としては4つある.1つは書店員の特性だけでなく,書店員のその時々の状態を考慮する必要がある.2つは営業研究のキーワードである「信頼」が回答者によって様々な解釈を生む言葉であるため,明確に定義をする必要がある.3つはインタビューによる定性調査を質量ともに充実させる必要がある.最後,4つには因子間の関連性についての分析が必要である.研究を継続するうえで,以上4つの課題が掲げられる.

 質疑応答では3つの質問を頂戴した.1つ目は本研究テーマを取り上げることとなった背景について.2つ目は出版社の営業は,エンドユーザーである読者ではなく,書店員が対象である点が特殊なため,営業一般について研究成果が当てはまらないのではないか.3つ目は出版社の営業担当者は売る努力が足りないと思うが,その点についてどう考えるか.以上の3つである.1つ目に対しては,私自身が長い営業経験を持っており,信頼される営業担当者というのは常に追求すべきテーマであったことが背景であると述べた.2つ目については,書店員に対しての販売は全てが実売に繋がらないものの,書店員の仕入れニーズに応えるという点では他の営業活動と共通している.ただ,この研究成果をもって営業一般に当てはまるとはしていないということを伝えた.3つ目は出版社の営業担当者が必ずしも販売努力を怠っているわけではないのではないかという考えを示した.ただ,出版社の営業担当者の販売努力だけでは,今の出版業界の売上低迷を打開することは難しいだろうとも付け加えた.以上で質疑への応答とさせて頂いた.