アクセシブルな電子書籍のために:標準化に出来ることと出来ないこと 村田真 (2019年2月27日開催)

■ 日本出版学会 第5回出版アクセシビリティ研究部会/出版デジタル研究部会 開催要旨 (2019年2月27日開催)

アクセシブルな電子書籍のために:標準化に出来ることと出来ないこと

村田 真
(慶應義塾大学政策・メディア研究科特任教授/日本電子出版協会技術主任)

 第5回例会は、村田真氏を発表者に招聘して開催した。電子書籍のアクセシビリティについての議論は、コンテンツをどのように作るのが適切かという話題が多くなる傾向がある。ともするとコンテンツで全てを解決しようとしているように聞こえるほどだ。しかし、電子書籍のアクセシビリティは、コンテンツだけでなく、電子書店やビューアの側の協力がないと達成できるものではない。そこで、村田氏には、電子書籍のアクセシビリティについて標準化という観点から見たとき、コンテンツ、電子書店、ビューアのそれぞれにどのような対応が求められるのかをご発表いただいた。
 以下、村田氏の発表概要である。

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 慶應義塾大学Advanced Publishing Laboratory (以下、APL)は、いろいろな活動をしており、その一つがアクセシビリティである。APLでアクセシビリティをテーマにすることになったのは、村井純先生(APL理事長/慶應義塾大学政策・メディア研究科委員長)からリクエストがあったからだ。
 昔は、見た目に綺麗なものを作る方法はあるのに、構造化しようとするから難しくなるといって、構造化文書を専門とする人は迫害されていた。しかし、アクセシビリティという話が出てきたことによって状況が変わった。文書を構造化して様々な提示の仕方をするという構造化文書のストーリーが、そのままアクセシビリティに役立つということで、村田氏はアクセシビリティに関わるようになった。
 読書のアクセシビリティが求められるのは、例えば以下のURLに記すように、紙の本を読むことが困難な人がいるからだ。こうした方に対処するためにも電子書籍の標準化は必要である。
 *「紙の本が読めない 読み難い状況とその原因」http://bit.ly/2EpH5c4
 アクセシビリティの観点から見ると、今の電子書籍には問題が多い。例えば、次のようなものがある。文字がすべて画像になっていて読み上げ不可能。ナビゲーションが弱い。アクセシブルなEPUBリーダを選べない。これらに対して、EPUBコンテンツ、EPUBリーダ、電子書店のそれぞれが取るべき対策がある。
 標準化は重要だが、標準化したからといってEPUBコンテンツ、EPUBリーダ、電子書店が対応するとは限らない。だから、読書バリアフリー法にも期待する。
 出版社に対してアクセシビリティに対応するように求めるには、収益に繋がるからと言いたい。そのエビデンスになるデータがあるとよい。

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 村田氏の発表後、参加者をまじえての活発な質疑応答が行われた。
 なお、今回の研究会では、印刷した講演資料を配布せず、手元で資料を閲覧したい方には、ご自身のPCやスマホで、日本電子出版協会(JEPA)のサイトから資料のデータをダウンロードしてご覧いただくようにお願いした。紙に印刷した資料は、読者の視機能等の程度によって不便を生じることから、アクセシビリティをテーマとする研究会ならば、参加者全員が同じ媒体で情報を入手するようにするほうが適切だろうという意図に基づく試みである。資料は、以下のURLからダウンロードいただいた。

http://www.jepa.or.jp/pressrelease/20190227/

参加者:59名(会員14名、一般45名)
会場:株式会社図書館流通センター 本社B1ホール

(文責:植村要)