『占領下の児童出版物とGHQの検閲』 共同文化社刊
谷 暎子
本学会の設立10周年記念事業としてはじまった日本出版学会賞は、今回で38回目の表彰となった。今回は、2016年に刊行・発表された「出版の調査・研究の領域」における著書および論文を対象として厳正な審査が行われ、日本出版学会賞1点、奨励賞2点の授賞が決定した。さらに、今回から『出版研究』に掲載された学術論文を対象とした清水英夫賞が新設され、1点の論文が表彰されている。
日本出版学会では、これらの優れた研究成果をより多くの方々と共有していくことを目的として、受賞者の記念講演会を開催している。今回は各賞の受賞者を代表して、日本出版学会賞を受賞された谷暎子会員にご登壇いただいた。
谷会員の受賞作である『占領下の児童出版物とGHQの検閲』(共同文化社)は、多くの先行研究によって汗牛充棟の感があった占領期の出版史研究・メディア史研究において、これまで充分に検討されてこなかった児童出版物という新たな分野を開拓し、一次史料によって実証的な知見をまとめあげた労作である。メリーランド大学の客員研究員としてプランゲ文庫の整理に従事した経験を持つ谷会員は、同文庫に所蔵されている児童書、雑誌、新聞、紙芝居などを包括的に考証することによって、占領下におけるGHQの児童出版物に対する検閲の実態を明らかにした。
講演では、分析に用いた実際の史料をスライドで映写しながら、本書で明らかにした知見について詳細に語っていただいた。史料をとおして、占領期に発行された児童書が、一般書と同じように検閲を受けていた事実が明示された。絵本のゲラ刷や表紙に書き込まれた生々しい検閲の痕跡を示しつつ、当時の児童書検閲の実態が解説された。
また、谷会員の考察は、検閲を「する側」であるGHQだけにとどまらず、「される側」であった出版社側にも及び、占領期の児童書をめぐる総体的な知見が示された。当時に見られた自主規制に関わる問題は、現代の出版に携わる私たちにも重要な示唆をあたえてくれるものであった。
参加者は20名を数え、谷会員による講演の後、積極的な質疑が行われた。末筆ながら、当日の来場者各位、そして今回の講演のために北海道から東京の会場までお越しいただいた谷会員に厚く御礼を申し上げたい。
日 時: 2017年10月11日(水)18時00分~20時00分
会 場: 日本大学神田三崎町キャンパス 10号館1081教室
参加者: 20名(講演者+会員12名、一般7名)
(文責:石川徳幸)