植村 要
(株式会社図書館総合研究所)
*以下,目的,対象,方法については,研究発表会会場で配布された予稿集を合わせて参照されたい。
1.目的
本報告の目的は,電子書籍TTSの誤読を解消するための原稿の書き換えという方法の有効性と限界を明らかにすることである。
2.対象
『電子書籍アクセシビリティの研究』(松原聡編,東洋大学出版会)のKindle版のTTSである。
3.方法
Kindle版電子書籍は,Kindle for iOS,Kindle for Android,Kindle for PCで展開でき,連動する音声エンジンが異なる。そこで,対象電子書籍について,表3-1に示す4環境で,異なる音声エンジンによるTTSを実施し,発生する誤読の状況を比較する。この4環境とは,3アプリの2017年4月時点の最新バージョン,および,対象電子書籍の著者らが執筆段階で誤読調査に使用した環境であるiOS 10.0.2のVOである。
表3-1 実験環境
環境1 | 環境2 | 環境3 | 環境4 | |
SR | Voice Over (対象電子書籍環境) |
Voice Over | TalkBack 5.0.4 Google テキスト読み上げエンジン |
Narrator |
OS | iOS 10.0.2 | iOS 10.3.1 | Android 7.1.2 | Windows 10 |
Kindle | Kindle for iOS | Kindle for iOS 9.5.1 | Kindle for Android 7.2.0.27 | Kindle for PC |
端末 | iPhone5S(Apple) | iPhone7(Apple) | nexus5X(Google) | キーボードPCII (テックウインド) |
4.結果と考察
表4-1は,対象電子書籍の著者らが公開した誤読修正リストに準じて,本検証結果を記載したものである。まず,「誤読等した語句等の文字表記」の列は,対象書籍の著者らが最初の執筆段階で使用していた文字である。この文字をVOが誤読したため,編集段階で著者らが原稿を書き換え,出版された本に掲載されることになった文字が,その右の「修正後の文字表記」の列である。その右側にSRが実際にどのように読み上げたかを記した。一番左の「修正前」の列が,「誤読等した語句等の文字表記」に記された文字の読み上げ状況であり,「誤読修正リスト」から転載した部分である。その右の「修正後」として記した環境1~4が,今回,報告者が検証した読み上げ状況である。
検証結果は,研究発表会では59件について報告したが,表4-1には誌面の都合から4件のみ掲載する。
(1) 1は,音声エンジンが変わることで著者らが意図したようには読み上げなかった文字である。
(2) 2は,著者らと同じ環境で検証しても,著者らが意図したようには読み上げなかった文字である。
(3) 3と4は,ビューワの不具合と思われる誤読と読み飛ばしである。3の「あいだに挟まれた」は,「かんにはさまれ」と誤読したため,「間」を平仮名に用字変更したのだが,VOでは,「カンニ」と漢字表記のときと同じ誤読をした。そこで,VOで一文字ずつ詳細読みしていくと,「あいだに」,と仮名で表示されていることが確認され,それをVOが「カンニ」と読み上げたのだと判明した。
4の,「混同色(こんどうしょく)軌跡」は,誤読部分に正しい読みを補足したので,本来は,「コンドウイロ コンドウショクキセキ」と読み上げるはずだが,「コンドウイロ コンドウショク」とだけ読み上げ,「キセキ」を読み上げなかった。そこで,一文字ずつVOで詳細読みしていくと,「軌跡」と表示されていることが確認され,VOの読み上げがスキップしたものであることが判明した。
(4) 執筆段階での検証における誤読発見に漏れた可能性のある文字があった。本の中に「人的サポート」という記述があり,VOは「ヒトテキサポート」と誤読した。これが,執筆段階の検証で発見されていれば表現変更された可能性がある。しかし,(2)に記したように,著者らと同じ環境で検証しても,VOの読み上げ状況に違いがあったのだから,これらが著者らの見落としなのか,端末の違いによって生じたものかは,判断できない。
表4-1 スクリーン・リーダーの違いと音声読み上げ状況
修正方法 | 誤読等した 語句等の 文字表記 |
修正後の 文字表記 |
読み上げ状況 | |||||
修正前 | 修正後 | |||||||
環境1 | 環境2 | 環境3 | 環境4 | |||||
1 | 用字変更 ・その他 |
図表1-1 | 図表1.1 |
ずひょう |
ズヒョウ イッテンイチ |
ズヒョウ イッテンイチ |
ズヒョウ イチ イチ |
ズヒョウ イチ イチ |
2 |
用字変更 ・その他 |
JIS X 8341-3: 2016 |
JIS X 8341-3: 2016 #コロンを 全角に |
じすえっくす はちさんよんいち さん にじゅう じゅうろく |
ジェイアイエス エックス ハチマンサンゼン ヨンヒャクジュウサン ニセンジュウロク |
ジェイアイエス エックス ハチマンサンゼン ヨンヒャクジュウサン ニセンジュウロク |
ジスエックス |
ジスエックス ハッセンサンビャク ヨンジュウイチ ハイフンサンコロン ニセンジュウロク |
3 | 用字変更 ・その他 |
間に 挟まれた |
あいだに 挟まれた |
かんに はさまれた |
カンニ ハサマレタ |
カンニ ハサマレタ |
アイダニ ハサマレタ |
アイダニ ハサマレタ |
4 | 読み補足 | 混同色 軌跡 |
混同色 (こんどうしょく) 軌跡 |
こんどういろ きせき |
コンドウイロ コンドウショク |
コンドウイロ コンドウショク |
コンドウイロ コンドウショク キセキ |
コンドウイロ コンドウショク キセキ |
5.結論
以上から,原稿の書き換えによって誤読をゼロにすることは,相当程度困難と考えられる。ここには,EPUBがリーディング・システムへの依存度が高い形式であることが関係する。誤読の解消には,前提となる音声エンジンの性能向上を優先すべきであり,それでも残る誤読は,文字の詳細読み機能によって対応するのが適切である。そのためには,コンテンツのテキストを端末にダウンロードすることと,ナビゲーション機能の向上が必要である。