司会者:田島悠来(同志社大学)
問題提起者:
中川裕美(岐阜聖徳学園大学非常勤講師)
村木美紀(同志社女子大学)
山中智省(目白大学)
本ワークショップでは、岐阜聖徳学園大学非常勤講師の中川裕美、同志社女子大学の村木美紀、目白大学の山中智省の三人が問題提起をし、フロアーの参加者の方々を交えて議論を行った。当日は10名にご参加いただき、盛況のうちにワークショップを終えた。以下に当日の討議の概要を記す。
本ワークショップは、これまで独自の出版/読書文化を築いてきた若年層向け小説について、出版と読書をめぐる状況を整理、検討することを目的とした。書物を手に取る読者の意識や価値観とは何なのか、彼らの読書様態を変える力を持った出版形態の変遷とはいかなるものなのか。これらの問題について「過去・現在・未来」という三つの観点から検討を行った。
まず中川の担当報告では、戦前期における児童読物に注目した。読書調査は、子ども向けの読物が登場した明治期においてすでに行われている。調査では、読書経験と児童の精神発達及び日常生活は相関するという考えの元に行われた。1930年代後半になると、それらの読書調査に関する研究が行われるようになっていき、読書調査が持つ問題が指摘されるようになっていった。そもそも読書調査における「読物」とは何なのか。書籍の形体や内容ばかりが重視され児童の存在が軽視されていないか。大人が考える「理想的な読物」に囚われるあまり、児童の自由な読書選択が置き去りにされていないか。これらの指摘は現在の読書調査が内包する問題と通じるものである。
村木の担当報告では「学校読書調査」の分析を中心に行った。同調査からは、中川の報告にあった戦前期と似たような小学生の読書傾向が見られた。中学生・高校生においてはメディアミックス作品が人気で、特に男子にはライトノベル、女子には実写化作品が読まれていること、原作が活字ではないものが年々増加してきていることが明らかになった。ただし、ライトノベル人気は値段が安く購入して読みやすいということも理由のようである。学校の一斉読書で各自で読書材を用意することを強制しているところが多く、子どもや保護者が本は購入して読むものと考えていることが窺える調査が複数確認できた。学校や図書館との意識の差が読み取れる点でもある。
山中の担当報告では、先の村木報告でも言及されたライトノベルを取り上げている。多種多様なジャンル/メディア/文化の要素を合わせもつライトノベルは、1980年代にその萌芽が見受けられ、以降はメディアミックスに代表される商業的動向と密接に関わりながら発展を遂げてきた。そしてメディアミックスが常態化していくなか、ライトノベルの主要読者とされる若年層(10~30代)の読書は、小説を含む複数メディアとの繋がりを前提に行われるようになった一面がある。ゆえに本報告では、「メディアを横断した物語やキャラクターの受容」が進むライトノベルの現状を再確認し、その読書様態を捉える際に必要な認識や視点について問題提起を行った。