図書館の機能と役割に関する一考察
宮下義樹(会員、洗足学園音楽大学講師)
昨今、史料や書籍のデジタル化・アーカイブ化は、目を見張る早さで普及し、日々多くの人々の利用に供されている。例えば、国立国会図書館デジタルコレクションの「アクセス数ランキング」をみると、前1ヶ月分の合計で1位が「奈良県公報」の67,206アクセス、2位が「官報、1901年5月18日」の61,353アクセスとのことである(2017年6月3日時点)。むろん、アクセス数が利用者の実数を大幅に上回るであろうことは想像に難くないが、それでもこの種の資料が数万を越える利用回数を記録することは、以前では考えられない現象といえよう。そうした資料のデジタル化・アーカイブ化の推進拠点ともなり、かつ、その成果物の閲覧窓口ともなっているのが、今日の図書館といえる。
紀元前より存在する図書館は、人類の知的遺産を蓄積・保存し、これらを人々の閲覧に供することで、現在へ、そして未来へこれを伝播する役割を担う、いわば知の拠点といえる。今回の出版法制研究部会では、著作権・知的財産権を専門とする発表者に、図書館がもつ本来的な役割やその保存対象につき、解説をしてもらったうえで、向後、図書館にはどのような法的支援が必要とされているのかにつき、発表をしてもらった。
発表者によれば、知の拠点たる図書館のシステムは、現代にあっては、多くの公共施設がそうであるように、概ね法律によって形づくられており、資料の収集・利用に関しても、一定の範囲で便宜が図られているという。図書館における資料保存に関する法律には、国立国会図書館法、著作権法などがあり、特に国立国会図書館法には、出版者に対して全ての出版物の納入を義務化する納本制度が定められている。ところが、同制度では、法で定義された「出版物」以外は納入の義務がなく、また、有料の電子書籍は当面の運用ではまだ、収集対象になっていないといった問題があるとのことである。こうした法の定めがない領域については、何を知の遺産として残していくべきなのかという、本来的かつ根本的な議論をする必要があり、図書館の役割につき、様々な角度から再考すべきであるというのが、今回の発表者の問題提起であった。
なお、予め企画していた訳ではなかったが、幸いなことに今部会には、実際に某市立図書館で勤務している職員の方が参加してくれたため、こうした問題と直面する図書館の現状について解説してもらうことができた。中小規模の地方図書館には、地域における知の拠点としての使命感を持ちつつも、保管場所等の問題から多数の資料を処分しなければならない厳しい現状があることや、電子書籍をサービスの対象とするにあたっては、初期の設備投資が膨大な額に上る、トラブルが発生した際の補償問題が未知数であるといった理由から、容易にこれに踏み切れないといった現実があることについて、お話し頂いた。また、会場となった日本大学危機管理学部で主に情報セキュリティーに関心のある学生からも、「ツタヤ図書館」と著作権の関係等に関する面白い質問がなされ、活発な質疑応答に花を添えた。
場 所: 日本大学危機管理学部 本館1203教室
参加者: 16名(会員9名、非会員7名)
(文責:瀧川修吾)