「図書館というアーカイブ機関とアーカイブ化の対象の行方」宮下義樹(2017年5月 春季研究発表会)

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図書館というアーカイブ機関とアーカイブ化の対象の行方


宮下義樹
(洗足学園音楽大学講師)


1.概要

 図書館は出版物のアーカイブの役目を持ち,法的にも国立国会図書館法による納本制度や著作権法による権利制限規定等によって,アーカイブ施設としてより重要な位置づけを負っている。これら施策により情報の集積と後世への伝達を行い,出版物の情報を利用者が適切に利用できるシステムが構成されている。
 一方こうした制度設計は法定の対象以外に関しては適用されない。対象外のアーカイブ化について,その必要性の有無についての分析を行う。

2.資料収集の対象とその限界

 資料保存についての法的な施策の例として納本制度があり(国立国会図書館法24条乃至25条の4),条文上,すべての出版物は国立国会図書館に納入し,原則としてすべての所蔵物を国民すべてが閲覧することができる。
 一方で,収集対象の限界も存在する。納本制度の根本は有体物を念頭においた規定であり,そうでないものは例外的取り扱いとなっている。例えば,電子書籍も納本制度の対象となっているが,対象は無料且つDRM(コピーガード機能)がついていないものに限定されている(附則2条)。インターネット上の情報についても複製・保存を行うことが認められるが(国会図書館法25条の3,著作権法42条の4),保存するインターネット情報は日本の公的機関に限定されている。また,DVD等のパッケージ化された物以外はテレビ・ラジオでの放送番組も納本制度の対象外となっている。
 納本制度以外の問題として,有体物の所蔵は著作権上の権利とは関係のない部分であり権利侵害は発生しないが,無体物の所蔵には複製権の問題が発生するため,権利者の許諾を得ないと権利侵害となる。法的問題は権利者との契約で解決できるが,権利者が否を唱えれば仮に図書館に必要な資料であったとしても所蔵できないのが通常の出版物とは異なっている。

3.海外における資料収集

 一方,海外においては日本では法的には資料収集対象外としているものを対象としているところもある。
 例えば,ニュージーランド,ドイツ,フランスでは2006年にオンライン出版物の法定納本制度を制定している(注1)。特に,フランスでは保存すべきインターネット情報資源の対象を「電子的通信により公衆に送信される対象となるあらゆる種類の記号,標識,文書,画像,音声又はメッセージも同様に,法定納入に服する」としており,日本と比べて保存対象が非常に広くなっている。
 放送番組も法的な保存対象としている国がある。英国はBBCの全放送を記録保存所に保管することが認められているし,フランスではケーブルテレビ,衛星放送を含むすべてのテレビ・ラジオ番組・コマーシャル等の法定納入が規定されている(注2)。

4.図書館の役割と今後の利用

 図書館における資料の保存と利用に対する対象物の選定と法的な保護のあり方をみるためには,図書館に求められる役目と必要な保護の在り方を追求していくことが求められている。つまり,何のために情報の保存を行う必要があり,後世に伝えていくのかということである。
 国立国会図書館法前文は,憲法の誓約する日本の民主化と世界平和とに寄与する使命のために国会図書館が存在すると規定している。そこで求められるのは国民が意思決定するために必要な情報であり,情報提供の場であろう。国民が自分の意思を導き出すための情報を得る手段としてインターネット資料や放送番組を排除する理由はない。放送番組についてもその公共性が大きいことから,人々の間で共有するべきであるともいえる(注3)。
 一方で,アーカイブ化された資料の利用方法の問題点や(注4),近年注目を集めている「忘れられる権利」をどのように捉えるのかという部分を無視することもできず,放送されればそれでお終いだからこそ問題とされなかった点をより深く考察する必要が生じてきている。出版等で形が残る物を選択して世に出した場合と,後世に残ることを想定せずに発表した場合での創作者側の意図や内容の差異をどう捉えるかも含めて,図書館では何を所蔵して後世に伝えていくべきかについて一度立ち止まって考えていくことが求められている。


1)鈴木尊紘「インターネットに対応する納本制度改正の動き」『カレントアウェアネス』No.290(2006.12)参照。
2)エマニュエル・オーグ著,西兼志訳『世界最大デジタル映像アーカイブINA』(2007)白水社,pp.38-42参照。
3)小林直毅「メディア/アーカイブ研究の展開へ向けて」マス・コミュニケーション研究No.75,pp.4-6参照(2009)。
4)犯罪捜査や裁判上の証拠等に使用されることで取材を行うことが困難になり取材・報道の自由が制限されることを放送側は恐れている。博多駅事件(最判S44.11.26刑集23巻11号1490頁)参照。