出版権の改正にみる流通者への権利付与のあり方 宮下義樹 (2016年5月 春季研究発表会)

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出版権の改正にみる流通者への権利付与のあり方


宮下義樹
(日本大学 非常勤講師)


I 著作権法改正による出版権の変化

 平成26年5月の著作権法改正により、以前は認められていなかった電子書籍に対しても出版権が認められるようになった。
 この改正は近年の電子書籍市場の発展と共に、海賊版による被害が大きいものであるからと考えられる(注1)。

II 出版権

 日本において出版者の権利と著作権では出版者の権利が先にあった。江戸時代には幕府により認められた書林仲間という出版者で構成された団体により板株という名前で出版が保護や取引の対象となっていた(注2)。
 ところが、明治32(1899)年の著作権法制定では著作者のみの保護で出版権は規定されず、出版権が加えられたのが昭和9(1934)年になってからである。この規定の原則は昭和45(1970)年の現行著作権法への改正に際しても維持されている。尚、この著作権法改正では国際条約と平仄(ひょうそく)を合わせるために、著作隣接権が新設されている。著作隣接権が実演やレコード制作に対して自動的に権利付与がされるのに対し、登録という要件が必要な点について反対する説も存在したが、結果としては著作隣接権と出版権は別の権利として処理されている(注3)。

III 出版権の意義・あり方

 出版権が認められる意味としては、出版行為に対して著作者側が二重契約等を行った場合に何らかの独占権がないと保護されにくく(注4)、また、契約で済ませると債権的効力しか持たず、出版者が問題に対処しにくい(注5)、著作物が存在するだけではなく満足に使用されることで文化的にも経済的にもその権能を発揮することが出来る(注6)ことをあげることが出来る。
 また、著作隣接権からのアプローチと著作権からの出版権では保護客体の違いが考えられる。
 著作隣接権であれば、出版行為に対して出版者が著作隣接権者として権利が与えられることになる。一方、出版権の整備や契約による対応では著作者と出版者の両者の取り決めで内容が左右される。著作物以外の出版に対する保護が認められるか。
 著作隣接権は著作物に対して与えられる権利ではないため、著作権で保護されない内容も保護される場合がある(注7)。一方で著作権を基に出版権を付与しようとする他の保護の在り方では、そもそも著作権が存在しないため、出版権が発生しないこととなる。パブリックドメインとなった出版物を誰かに独占させることは問題となるが、例えば、音楽では実演家の違いで音が異なるように、出版物も書面により読感が変わることもあるかもしれず(注8)、また、復刻出版する際に、調査や修復等で費用をかけてもペイできず、復刻がされないということもありえる。

IV 今後の保護のあり方

 電子出版権の導入はされたものの出版権の問題は解決されたわけではない。出版権の対象となるのは文書または図画であるが、電子書籍はマルチメディア的なものもあり(注9)、また、書籍という限定されたフォーマットの枠内で考察すべきなのか、コンテンツという大きな枠組みで考慮すべきなのかという点で出版権の範囲、射程は大きく異なるものになる。
 今回、日本の著作権法は改正されたものの、世界の著作権法が改正されたわけではない。日本の出版物の海賊版流通では海外が大きな割合を占める上(注10)、国内で利用される海賊版でも海外サーバーが使われることがある。国内のみならず、海外をも含めた視点で出版権の在り方を見ていく必要がある。


1)経済産業省『平成25年度知的財産権ワーキング・グループ等侵害対策強化事業最終報告書』(2014)によれば日本マンガのオンライン海賊版流通金額は約500億円で、2010年の適法な電子マンガ市場とほぼ同程度の規模だと推定されている。
2)伊藤p.121、伊藤孝夫「近世日本の出版権利関係とその解体」法学論叢146巻5・6号(2000)118頁。
3)勝本正晃「著作権法の改正について(2)」著作権研究No.2(1969)30頁。
4)「50年史」編集委員会編『日本雑誌協会日本書籍出版協会50年史』(日本書籍出版協会 2007)156頁。
5)土屋正三「出版権小論(1)」警察研究5巻6号(1934)30頁。
6)布川角左衛門・美作太郎『著作権・出版権問答』(出版ニュース 1965)55頁、なおこうした考えは著作隣接権付与の考えと通じている。
7)クラシック音楽の実演やスポーツの試合の放送等。
8)文化審議会著作権分科会出版関連小委員会(第2回)日本楽譜出版協会提出資料(http://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/shuppan/h25_02/pdf/shiryo_4.pdf)。
9)すでにゲームという分野で小説に選択肢、音、映像効果等を付与した「サウンドノベル」というものが存在している。
10)文化庁「海賊版被害等に関するアンケート調査」(2010)。