《ワークショップ》出版史料のデータベース/アーカイブを考える 石川徳幸 (2016年5月 春季研究発表会)

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《ワークショップ》 出版史料のデータベース/アーカイブを考える


 司会者:石川徳幸(日本大学法学部)
 問題提起者:長尾宗典(国立国会図書館)
         瀧川修吾(日本大学危機管理学部)
 討論者:芝田正夫(関西学院大学教育学部)


 当ワークショップでは、国立国会図書館の長尾宗典氏と日本大学の瀧川修吾氏に問題提起をお願いし、芝田正夫氏に討論者として意見を加えていただいた上で、フロアーの参加者の方々を交えて、忌憚のない自由闊達な意見交換を行った。当日は34名にご参加いただき、盛況のうちに90分の討議時間が過ぎた。この場をお借りして、参加していただいた方々に御礼を申し上げたい。以下に当日の討議の概要を記す。
 まず、長尾氏より「出版史料と図書館」という視点から問題提起をしていただいた。出版史料を仮に「出版の歴史についての知見を与えてくれる素材」としたとき、その対象は出版物そのものだけでなく、出版資本に関するものや流通に関するもの、個人文書など多岐にわたることになる。そうした史料の中から、なにを「アーカイブ(永久保存)」するのかという、根本的な視点から問いが立てられた。また近年、デジタル技術の進展によって史料の保存に関する議論が盛んになってきているが、「出版史料の断片的性格、分散的な存在」という状況は変わっておらず、単純に、デジタル化によって出版史料をめぐる環境が良くなると捉える考え方に対しては、懐疑的な見方が示された。また、学会におけるデジタル・アーカイブをめぐる議論は学術利用に関する見方に偏りがちであるが、教育・報道・個人的趣味など、デジタル・アーカイブがどう使われるかについては限定することができないという留意点があげられた。データベースの構築をめぐる議論に関しては、各人のイメージが違い過ぎているという点も現状の課題として提起された。
 こうした出版史料をめぐる論点を整理した上で、長尾氏は「図書館は出版史料をどう扱ってきたか」、「出版研究のために研究者と図書館員は何が出来るか」という視点から議論を展開され、具体的な取り組みの例として、目録・辞典・年表・史料集等の製作を出版研究者と図書館が協同して行うことの意義を説かれた。
 続いて、瀧川氏からは「史料革命とその危機管理への提言」という視点から問題提起をしていただいた。瀧川氏は、出版史料がデータベース化/アーカイブ化されたことによってもたらされた変化について、(1)場所の制約、(2)時間の制約、(3)行為の制約、(4)主体の制約といった歴史研究における4つの制約を排除する役割を担った点に注目された。また、出版史料の利便性が増すことは、歴史研究だけでなく、教育においても効果が期待できる点を、活用例を示して説明された。
 こうした利点を整理した上で、瀧川氏はその利便性の裏側に潜む問題点として、次の2点を指摘した。第1に、出版社の出版権に関する脅威である。たとえ原史料の著作権保護期間が切れていたとしても、無配慮にデータベース化/アーカイブ化してしまえば、これまで真摯に史料集をつくってこられた出版者の権利が侵害されかねないという点が憂慮された。第2に、史料へのアクセスが容易になることによって生じる新たな混乱である。たとえば、原史料が複数存在する出版物に関して、アーカイブ化された1つのものしか確認されなくなり、断片的な見方がされてしまう点が懸念される。また、デジタル化された画像が容易に改ざんできるという問題点も指摘された。
 以上の問題提起をうけて、まず芝田氏による討論をお願いした。芝田氏は、新聞史研究を例に、基礎資料の類型を、(1)刊行された新聞のリスト(ビブリオグラフィー)と所蔵に関するデータ、(2)現存する過去の新聞、(3)新聞発行者など関係者の伝記や回想録、(4)新聞史に関係する各種の文書類、(5)発行部数などの把握に必要な統計資料、(6)新聞史研究に関する文献目録(書誌)の6点に整理された。その上で、原史料の収集と整理の重要性と、「アーカイブ研究」の必要性を指摘し、いわゆる「書誌の書誌」といったものが整備されることが求められるのではないかと展望を示された。
 フロアーからは、アーカイブ構築のために半年間かけて準備を進めたが頓挫してしまった事例が紹介されたり、ナショナル・アーカイブ構想との連携や、将来的なアクセス保障を念頭に非公開で構築が進められる「ダーク・アーカイブ」に関する意見がだされたりと、多彩な議論が展開された。
 総じて、当ワークショップでは、出版史料のデータベース/アーカイブに関する取り組みについて、実務家と研究者との協同に向けた萌芽的な議論となった。今回の議論をさらに発展させていくことで、出版史料をとりまく環境の向上に寄与していきたい。
(文責:石川徳幸)