ライトノベル図書の変遷とメディアとしての可能性 斎藤 純 (2015年5月 春季研究発表会)

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ライトノベル図書の変遷とメディアとしての可能性
――出版と図書館学的視点から


斎藤 純
(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程)


はじめに
 「ライトノベル」は近年中高生世代を中心に人気を博し,アニメ放映などの相乗効果もあり,その読者層は広がりを見せている。
 図書館学的にはヤングアダルト図書(YA図書)の一ジャンルとも位置づけられているが,その発展の経緯やメディアとしての性格の違いから,他のヤングアダルト図書にはない,さまざまな可能性を秘めているメディアともいえる。本発表では「ライトノベル」の近年の動向や経緯をおさえ,社会的な事象と関連付けながらライトノベル図書のメディアとしての新たな可能性について探る。

近年の動向と読書状況
 ライトノベルは「マンガ/アニメ的なイラストが付与された,十代の若年層を主要読者とするエンターテインメント小説」という定義が一般的である。以前は特定の文庫レーベルを中心とした限られたスタイルが主流であったが,近年は新規参入する出版社が増加し,B6判や新書判など文庫以外の形式の作品も刊行されるようになっている。
 出版不況で「本が売れない」と言われるようなって久しい。だが,書籍全体の売り上げが低迷・減少する中にあって,ライトノベルは着実に売り上げを伸ばしている数少ないメディアとしても注目されている。例えば2013年度は村上春樹の『色彩を持たない多崎つくると,彼の巡礼の年』(文藝春秋)が一般文芸の書籍として久々の98万部というミリオンセラーに近い売り上げを記録した。しかし,同年のライトノベルでベストセラーであった川原礫『ソードアート・オンライン』シリーズ(電撃文庫)は,年間累計で200万部を超える売上を記録し,読者数の面からもライトノベルの受容層が増えていることが窺える。実際に中高生の読書状況に目を向けると,ライトノベルは朝の読書で読まれる人気の本に多くランクインし,学校図書館への配架や新刊本のリクエストとしても要望が多いことがわかる。全国学校図書館協議会・研究調査部が毎年行っている『学校読書調査』を見ても,中高生のライトノベル人気に拍車がかかっていることが顕著である。2014年度の調査では人気書籍のトップ5のうち3冊をライトベルが占めるという結果も出ている。
 公共図書館においては「ヤングアダルトサービス」の中に位置づけられ,青少年向け図書のPRとして「ヤングアダルトコーナー」などの青少年向け特設書棚に配架されるケースが多い。ライトノベルがヤングアダルト図書の蔵書を占める割合が高く主要な資料となっている図書館も多い。
 ライトノベルをめぐる新たな動向として,作品の舞台やモデルとなった場所を「聖地」と称し,実際に作品にゆかりのある場所をファンが訪れる「コンテンツツーリズム」という現象が多発している。このようなコンテンツツーリズムは地域活性化の手段として観光学・社会学的に注目されている。
 ライトノベルを契機とした町おこしの事例は聖地巡礼以外にもさまざまなケースが各地域で確認できる。地元の商店街や商工会議所,地元産業,観光課など官・民が一体となって協力関係を築き,継続的な町おこしを手がける地方も出てきており,ライトノベルが単なる一次的な読まれるメディアから,多くのコミュニティーをコネクトさせるメディアとして,新しい可能性を示唆しているといえる。

まとめ
 今後の課題として1点目はメディアの特性をどう活かしていくかということがある。ライトノベルはメディアミックスの性質上,単体での発信というより他のメディアと持ちつ持たれつの関係で展開することが多い。本来の作品以外にメディアミックス展開させる媒体,方向性によりいかなる形にも変化するものである。その関連性からライトノベルを契機とした経済効果・地域振興・観光誘致などの効果として注目すべき点は多々ある。だが,メディアミックス展開そのものは短命になりがちなため,一時的なブームで終わってしまう可能性もある。どのように持続性を持たせ,周囲と協力関係を築きながら真の町おこしや地域復興へ繋げていくかという点が重要であるが,全国的には新しい試みも始まってきている。
 また,2点目として読書状況や図書館などの実際にライトノベルを受容する側の傾向を押さえ,刊行後も敷衍できる環境を整備することだ。ライトノベルは作品の特性上「活字離れ」を防ぐメディアの一つとして読書推進の面からも注目すべき点がある。しかし,新しいメディアや若者向けのメディアはこれまでも「教育的配慮」の名の下で多く干渉に晒されてきた歴史がある。外部からの書籍に対する「干渉や検閲」という可能性も考慮し,享受する側のアクセス権や知的自由の問題等を見据えた対応も必要である。