企業のブランド構築と書籍出版  主藤孝司 (2011年5月 春季研究発表会)

■企業のブランド構築と書籍出版
 (2011年5月 春季研究発表会)

 主藤孝司

概 要:
 書籍出版が企業経営に好影響をもたらす事例については,2009年度の日本出版学会春季研究発表会で発表したとおりである。しかしながら,そういった書籍の効果を企業や経営者は有効活用できているのだろうか。そこで今回,ブランド意識調査の協力を上場企業844社に依頼。そのうち,代表者自らの直接回答による協力承諾を頂いた121社へアンケート(設問数10)を送付,うち90社から有効回答を得た。これらの調査結果から,経営者が考え,実践しているブランド構築に書籍出版がどのように活用されているのか,企業活動の現場でなされている具体的な取り組みとその課題の探求を発表する。

キーワード:
経営,ブランド,企業出版,経営出版,電子出版,出版実現文化,アンケート

1.ブランドの定義
 はじめに本研究におけるブランドという言葉を定義しておきたい。ブランドとは,信用(イメージ)と品質(機能や能力)で顧客の内面に構築されていく「影響力」をいう。

2.企業にはなぜブランドが必要なのか
 ブランドは,最終的には比較検討されることがない絶対的な影響力を持つに至る。ブランド(絶対的な影響力)による顧客への働きかけがなされると,顧客は行動が変わり,感情や価値観も変化する。そのブランドの働きかけによって購買の意思決定が影響を受けるようになる。逆にブランドが確立されていない(信用イメージが低いまたは品質が低い)場合は,顧客は他の類似の商品と常に比較検討を行い,購買決定をしていく。そのため,どの企業もブランドの構築に力を注いでいる。

3.企業ブランドの構築方法として「書籍」を挙げる企業は1割
 アンケートでは,9割以上の経営者が「大企業・中小企業にかかわらず,企業には『ブランド』が必要である」と回答している。しかし「いち早くブランドを構築するために効果的な方法」としては,約5割の経営者が「テレビCMを出稿する」と回答。書籍の出版が効果的な取り組みであるとの回答は全体の1割に留まっている。
 「書籍出版」を実際にブランド構築に活用している企業では,「書籍を読んだ会社から仕事の依頼がきた」「採用活動で応募者が増えた」などの評価があった。実際に10年間で20冊以上の書籍を出版し経営に活用している企業もあったが,書籍出版を継続的に行っている企業とそうでない企業では,年数が経つほど出版冊数にかなり大きな開きがみられることも,このアンケートからわかったことである。

4.経営者は著者を「ブランドがある人」と見ている
 アンケートでは,「ブランドを持っている人」といえば「テレビ番組で取り上げられた人」「新聞記事で取り上げられた人」に続いて「本の著者」が「雑誌に載っている人」と並んで3番目に位置づけられている。経営者は著者に対してかなり高い割合でブランドを持っている人であると認識していると言える。

5.経営者の多くはブランドづくりといえばテレビCMだと考えている
 「著者はブランドがある人だ」と認識している経営者が多いにもかかわらず,先に見たように,経営者自身がブランドを構築するにあたっては書籍出版よりもテレビCM,ホームページ,新聞雑誌の広告,広報PRなどが効果的であると考えている。テレビや広告などマスコミによるブランドづくりが,経営者にはまだまだ王道であると認識されているといえる。

6.ブランドづくりの課題
 経営者にとってブランドづくりの最も大きな課題はコストである。次に,人材,その次が知識不足となっている。昨今の電子出版の広がりは,経営者たちの出版への興味を強めている。この流れが書籍出版に関する情報の広がりとなり,多少なりともこの課題が解決されていくのではなかろうか。

7.書籍を出版すればいいというわけではない
 最近の傾向として「名刺がわりに本を出す」「作家のような物語,作品を執筆したい」「ベストセラーを狙いたい」など,経営効果を目的としない動機で出版を行う経営者が増えている。そういった動機で出版された書籍には,企業経営や企業ブランドにマイナスの影響を与える書籍も多い。読者を必要以上に自社商品に注目させたり,あからさまな読者心理操作を行っている書籍も多く見られる。書籍は文化作品であり思想や学術,研究発表の場であることを考えると,こういった書籍の出版は著者や企業のブランド構築に繋がらないことを経営者は理解しなければならない。
 経営者は自身の事業を通じて自らの専門性を高め,その専門分野において自身の企業や商品が解決している社会問題をテーマとして書籍を出版していく必要がある。それが今回のアンケート結果を通じて得られた知見のひとつであり,経営者が書籍出版による情報発信を行うことでブランドを構築していく最低条件ともいえるのではなかろうか。

※今回のアンケート調査は著者の企画に基づいてパスメディア及びダイヤモンド社の協力によって実施されました。