雑誌編集長のリーダーシップと業績に関する分析  姜 理惠 (2010年4月 春季研究発表会)

■雑誌編集長のリーダーシップと業績に関する分析
 (2010年4月 春季研究発表会)

 姜 理惠

1.本研究の背景と目的
 本研究は雑誌部門の業績を左右する要因を,編集長のリーダーシップという観点から研究する。編集長のリーダーシップと当該雑誌の業績を比較・分析することで,業績に寄与する編集長のマネジメントタイプを示す。本研究のリサーチ・クエスチョンは,「雑誌編集部において,業績に影響を与えている要因は何か」,仮説は,「編集長のリーダーシップが優れている編集部は,業績が良い」とする。
 本研究では,編集長は編集部員に対して①編集部ならびに雑誌の進むべきビジョンを提示②その実現に向けて実行する,という責務を負うものと考え,Avolio, Bass(2000)の変革型リーダーシップ理論を採用して,雑誌編集部における編集長のリーダーシップを論じる。

2.調査手法
 Avolio, Bass(2000)の多次元リーダーシップ尺度(Multifactor Leadership Questionnaire; MLQ)を用いてデータを収集した。MLQは英語によるため,日本語化に際しては二重翻訳を採用するなど翻訳による誤謬を避けるよう努めた。
 MLQは①部下による上司と職場環境評価,②管理職による自身と職場環境評価,の2種類がある。本研究では雑誌編集部の編集長(現職,経験者共に含む)3人に対して②の自己評価型を適用すると同時に,37人の現職雑誌編集者を対象に部下型MLQを用いた質問票調査を実施した。所属する雑誌編集部の業績については雑誌のジャンルと,同ジャンルの顧客動向も含めて相対評価とした。編集長に対しては直接面会した上での記述式,編集者を対象にしたデータ収集についてはインターネットを用いたアンケートフォームを利用し,匿名・数量化した上で,統計ソフトを利用して分析を行なった。なお調査協力者はスノーボールサンプリングによって募った。

3.結果
 まず3人の編集長を対象にしたMLQによるリーダーシップタイプの判定と,それぞれ編集部の業績以下のようになった。
 A氏=消極型=限定的で,リーダーシップの波及範囲が狭い。=部数減少
 B氏=事務処理型=消極的行動のスコアは少ないが,ほかには平均的にリーダーシップを発揮=健闘
 C氏=変革型=広範にわたってリーダーシップを発揮,消極的要素はきわめて少ない=躍進
という違いが明らかに見られた。
 業界を限定しないMLQ調査では,事務処理型リーダーシップにおいても一定程度業績に寄与していた。しかし本研究の結果,雑誌編集部では,事務処理型リーダーシップでは業績に寄与する割合が他産業に比べて低かった。同時に変革型リーダーシップの効果は,他産業における調査結果に比較して,より強く業績に影響するという結果になった。
 編集者を対象にした「部下による上司評価型MLQ」の相関分析の結果,特に顕著な結果が表れた項目の一部を以下に抜粋する。
1.編集長のリーダーシップの効果が高い編集部は,発行部数が多い。 .377
2.編集長のリーダーシップの効果が高い編集部は,1年前に比べて競合誌との部数シェア競争で勝っている。      .357
3.編集長のリーダーシップの効果が高い編集部は,1年前に比べて編集部員数が増えている。 .367
4.自由奔放なリーダーシップの下では,発行部数が少ない。  -.354
5.編集長が理想的な影響(行動)を示す編集部は,発行部数が多い。 .328
6.編集長が理想的な影響(属性)を示す編集部は,編集部員数が多い。 .341
7.環境に比べて業績が健闘している編集部では,例外管理(能動)が多い。 -.402
8.随伴報酬が明確な編集部は,編集部員が多い。    .417
9.例外管理(能動)が多い編集部は,1年前に比べての競合誌との部数シェア競争で勝っている。        .401
10.個人配慮が発達した編集部は,1年前に比べての競合誌との部数シェア競争で勝っている。 .389
11.知的刺激が強い編集部は,1年前に比べての競合誌との部数シェア競争で勝っている。 .340
12.動機付けが強い編集部は,1年前に比べての競合誌との部数シェア競争で勝っている。 .334
13.個人考慮が発達した編集部は,1年前に比べて編集部員数が増えている。 .355
14.動機付けが強い編集部は,1年前に比べて編集部員数が増えている。 .336
15.編集長が理想的な影響(行動)を示す編集部は,1年前に比べて編集部員数が増えている。 .360

4.結論
 本研究のリサーチ・クエスチョンである「雑誌編集部において,業績に影響を与えている要因は何か」という問いかけに対する答えとして,リーダーシップという観点からは,編集長が優れたリーダーシップを発揮するとき,雑誌編集部の業績は良いという結論にたどりついた。また雑誌編集部で業績に寄与する編集長のリーダーシップのタイプとしては,変革型リーダーシップが他産業に比較して業績に寄与する割合が大きいという結果になった。
 雑誌編集では,編集者の創造性が十分に発揮され,雑誌自体が創造性にあふれたものになる必要がある。そのためには変革型リーダーシップによるマネジメントが不可欠であり,それ以外のマネジメントでは業績に寄与しないと考察する。