近代日本の絵本と住吉大社御文庫蔵書調査報告  大橋眞由美 (2008年5月春季研究発表会) 

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近代日本の絵本と住吉大社御文庫蔵書調査報告 (会報122号 2008年10月)


   大橋眞由美

 本研究は,近代日本の大阪資本絵本の成立と大阪の出版文化の変遷を解明することを目的として,住吉大社御文庫蔵書(7,701点,24,600冊)の一部,近代の絵本と関連資料の調査を行うものである。具体的には,2007年11月から2年間に計4回,約300冊の御文庫蔵書を,大阪府立大学学術情報センター図書館に借り入れ,デジタルイメージを作成する。今回の発表は,その第1回調査の報告である。
 第1回調査(2007.11.01-12.25)では,近世の女訓書,近代の家庭書,近代の絵本など,36点,計80冊を対象とした。近代の絵本は,輝文館刊行(1910)4冊,駸々堂刊行(1912)1冊,田村九兵衛刊行(1919)18冊,計23冊であった。これらは,国立国会図書館国際子ども図書館児童書総合目録で検索した限りでは,他の公共的な図書館・文学館に所蔵されていない。
 漫画雑誌『大阪パック』を刊行していた輝文館のものは,作者不明,ジンク平版の両面印刷,中綴じ製本(15×21cm,16p.)の『電車パック』などであり,裏表紙には「都の花石鹸」や「仁丹」,そして「大阪パック」の広告が印刷されている。駸々堂のものは,大淵浪著,文字なし絵本,木版刷りの片面印刷,袋綴じ製本(15×21cm,6丁)の『こども博覧会』であり,当時全国で開催された「こども博覧会」との関連を見出せる。田村九兵衛のものは,作者不明,巌谷小波監修,ジンク平版の片面印刷,袋綴じ製本(17×19cm,7丁)の叢書《サゞナミヱホン》である。
 田村九兵衛(田村熈春堂)は,『住吉大社御文庫目録 国書漢籍』(住吉大社編,大阪書林御文庫講,2003),国立国会図書館総合目録,国立情報学研究所OPACで検索すると,近世のものでは,1794(寛政6)年刊『住吉名所図会』,1796-98(寛政8-10)年刊『摂津名所図会』などの刊記にその名を記している。所蔵館によって書誌記載法が異なり,近世のものは板木の移動があることから,この情報は調査した限りのものであることを断りとする。近代のものでは,御文庫に,1907(明治40)年刊『うかれぶし』,1910(明治43)年刊『浪花ぶし義士伝』,(大正8)初版,1927(昭和2)年刊『BARCAROLLE No.16 ヴァイオリン・マンドリン・ピアノ伴奏付き』(初版1919)などが所蔵されている。
 ところで,大阪を代表する洋画家・田村孝之介(1903-1986)は,『田村孝之介画集』田村孝之介画,日動出版部,1977)の年譜によると,書籍卸業・熈春堂の5代目・田村九兵衛の4男4女の末子であった。孝之介は,1920(大正9)年に画家修業のために上京したのだが,父・九兵衛がその翌年(1921)に死去したために帰郷し,大阪で画家修業をしている。そこから,田村九兵衛は大正までに5代続いた書肆であったことがわかる。御文庫には,田村九兵衛の名を記す近世本が所蔵されていることから,近世から近代に至るその足跡は,近代の大阪資本絵本の成立や大阪の出版文化の変遷のみならず,心斎橋筋を軸とした大阪の都市形成を解明するための貴重な史料となるだろう。
 なお,本研究は,2007年度の財団法人トヨタ財団研究助成,大橋眞由美「近代日本の絵本に関する研究-住吉大社「御文庫」および公共機関蔵の大阪資本絵本と関連資料調査」(助成番号D07-R-0057)の一環として取り組むものである。

(初出誌:『出版学会・会報122号』2008年10月)

なお,「春季研究発表会詳細報告」(pdf)がご覧になれます。

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