「2014年と2015年の紙発行書籍の電子書籍化率」 伊藤民雄 (2018年5月 春季研究発表会)

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2014年と2015年の紙発行書籍の電子書籍化率


伊藤民雄
(実践女子大学図書館)


 本発表は,個人向け及び図書館向け電子書籍を研究対象に行った.


1.研究の背景と目的

 日本の図書館における電子書籍サービスの発展には,和書コンテンツの充実が不可欠であるが,供給されるコンテンツの全体像を把握することは難しい.本研究は,ある研究者が断じた「紙と同じコンテンツが電子版で入手できることが必須条件である」ことから着想を得て,個人向け及び図書館向け電子書籍を対象に,紙書籍から電子書籍化されたコンテンツの電子化率,及び電子書籍サービス間のコンテンツの重複具合を算出することと,その上で市場別陣容の特徴を明らかにすることを目的とする.但し,電子オリジナル書籍(ボーンデジタル,セルプパブリッシングの電子書籍)は研究対象とはしない.


2.研究上の問題点と研究方法

 電子書籍市場には,新刊書籍と同時(サイマル出版)だけでなく,あえて半年から1年ほど刊行時期をずらした(ディレイ出版)が存在し,供給ルートによって「個人向け」と「図書館向け」に区別されている.ディレイ出版が存在することを考慮しながら,紙書籍の電子書籍化率を正確に求めようとすると,2017年や2016年の紙書籍を対象にするのではなく,それ以前に出版された書籍を対象とする必要が生じた.
 先ず紙書籍ISBNで管理されている図書館向け電子図書館サービス(以下「電子図書館」),及び個人向け電子書籍サービス(以下「個人向け」)で配信される電子書籍の全点リストを取得する.続いて重複を判断する識別子として紙書籍ISBNを利用し,重複排除しながら一つのリストとしてまとめ,最終的に公的統計の総出版点数を分母として電子化率を算出する.公的統計として利用するのは,取次ルートを経由した書籍を対象とする『出版指標年報』である.[筆者註:本研究で算出する電子化率は,あくまで書店で販売されるISBN付き日本語紙書籍に限定した.]


3.研究対象と結果

 取得したリストは,大学図書館向け電子図書館EBSCO eBooksとMaruzen eBook Library,公共図書館向けのJDLS LibrariEとメディアドゥのOverDrive,及び医学図書館向け電子図書館の医書.jpとメテオのMedical*Online eBooksの6サービスである.一方,個人向けのリストとして取得したのは,大手A社サービスである.これが研究対象である.
 電子図書館6社サービスを一つの表としてまとめ,電子書籍の底本となった出版年をY軸に,点数をX軸にしてグラフ化したところ,古くは1902年から逆ロングテール状のなだらかな曲線を描き,2010年付近から急増し,2014年がピークとなったことからディレイ出版が存在することが窺えた.また,編著者別の電子化点数を表にしたところ,1位は「アジア城市(まち)案内」制作委員会の182点,2位が仏書刊行会編纂の161点と続き,上位はパソコン本と旅行本が占め,7位に始めて作家の赤川次郎が入ったが,他の小説家は上位13位にも入っていなかった.
 目的の一つとした紙書籍,かつ2014年と2015年の出版年に限定し電子化率を算出した.電子図書館6社の合計は9,582点である.一方,A社個人向けは27,685点である.両者合計は32,645点(2014年16,572点,2015年16,073点)である.両者の重複タイトルは4,622点である.『出版指標年報』の発行点数(2014年76,465点,2015年76,445点)を分母にし,電子化率を計算したところ,2014年は21.7%,2015年は21.0%,両年合計は21.3%であった.


4.考察

 電子図書館4サービスの重複具合から検討したところ,MaruzenとEBSCOの二者,OverDriveとLibrariEの二者の重複は多いように見えるが,全体的に重複は多くなく,分散している(=あまり競合していない)ようにも見える.一方,医学図書館向け2サービスを検討したところ,医書.jpとMedical*Online eBooksの重複はほとんどない.これは,両者がそれぞれ関係する電子ジャーナルサービスのMedicalFinderとMedical*Onlineに同様の関係が存在するようである.
 電子図書館6サービスと個人向けA社サービスの合計7つのサービスを日本十進分類法(NDC),日本図書コード(分類コード),図書館流通センターTRC別置コードで検討した.例えば,TRC別置コード(一般書架ではなく別の場所に配架されるもの)で得られた特徴は,OverDriveとLibrariEは文庫が目立ち,A社は文庫,児童図書も多く含んでいたが,成人向け文庫と成人向け図書も目立った.


5.結論

 2014年と2015年に出版された紙書籍を底本とする電子書籍化率は21.3%であった.電子図書館サービス間の重複具合が中途半端なため,競合しているとも言えず,また差別化が図られているとも判断しにくい状況であった.着想を得た「紙書籍と同じコンテンツの電子版が入手できることが必須条件」は,電子図書館だけでは充足できず,個人向けも含めないと厳しいのが結論である.


6.質疑応答

 電子化率が一人歩きすることへ危惧,及び電子化率算出の分母の数字が適当であるか否かの疑問が出された.質問者を納得させる回答ができなかったため,本報告の文章中に「筆者註」を入れて,本回答に替えることとした.