「電子出版を活用した出版・図書館における多文化サービスの可能性」野木ももこ(2016年12月 秋季研究発表会)

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電子出版を活用した出版・図書館における多文化サービスの可能性


野木ももこ
(立命館大学大学院修士課程)


 本発表では,電子出版の可能性について,出版や図書館サービスにおける多文化対応の観点から,考察し検証した。本研究の目的は,日本の出版社がこれまで取り組んできた多言語出版や日本語教育関連出版,大学図書館や公共図書館が行ってきた多言語資料を活用した多文化サービスを,電子出版を活用することで高度化することである。
 研究方法としては,まず,多文化サービスの現状について,国内在住外国人や日本語教育分野における出版物の現状に関する統計等の文献調査を行った。また,公共図書館でのインタビュー調査を行い,多文化サービスの現状と課題を析出した。例として特に,国際交流基金関西国際センター図書館で実地調査を行い,日本語教育に特化した資料の利用やサービスについて調査し,選書やサービス方法から,日本語教育に使用される出版物の特徴や公共図書館の多文化サービスに応用できる活動について考察した。さらに,多文化サービスを先駆的に導入した大阪市立図書館へのインタビュー調査を実施し,多文化サービスの現状に関する論点整理を行い,電子書籍の導入等のICTを活用した多文化サービスの新しい可能性について分析した。
 図書館が今までに「多文化サービス」として行ってきた活動としては,「日本語,日本文化の教育をする,その手助けをする。」「コミュニティに馴染むための橋渡し役をする。」「住んでいる地域や出身国の情報を提供する。」等が挙げられる。利用者としては,多くが定住外国人を想定しており,「日本語が不十分な利用者」と「日本語はできるが自国の情報が知りたい利用者」を主に対象としている。近年では,観光と結び付けた「新しい多文化サービス」も現われている。
 多文化サービスを行う上でひとつの要素となる「日本語教育」について,「日本語教育」の関連書籍を多く出版している出版社を「立命館大学ディスカバリーサービス」の結果や日本語教育の専門図書館である国際交流基金関西国際センター図書館で紹介されているリストから抽出した。主な出版社として,凡人社をはじめ,アルク,スリーエーネットワークが挙げられた。多くの出版社は,海外への発送を行っているが,電子書籍を導入しているのはスリーエーネットワークのみだが,金額やタイムラグを考えると,電子書籍等のICTサービスの利用は有効だと考えられる。
 図書館の多文化サービスのひとつの指標である外国語図書の蔵書では,公共図書館は,「多文化サービス実態調査1998」によると,全体の72%程が所蔵しているが回答の6割が200冊以下の所蔵である(注1)。
 大学図書館では,公共図書館に比べると洋書に関する統計も毎年とられており,蔵書数も大学の図書総数の3割は洋書になる(注2)。また,電子ジャーナルや電子雑誌の利用も行われている。
 しかし大学,公共図書館とも,外国語資料の蔵書や電子書籍等が一定程度ある場合も,利用者の必要とするサービスの提供に結びついていない。単に資料を置くだけになっている傾向がある。
 大阪市立中央図書館では,市内在住,在日外国人への資料提供が主な活動として意識されており,英語の電子書籍約3,500点(著作権フリーの古典中心)も提供されている。館内表示の多言語化や多言語の読み聞かせも行われている。多言語化の活動が多いが,インターフェース等や企画の問題でうまくいかせていない部分がある。
 国際交流基金関西国際センター図書館では,日本語を学ぶために必要な書籍の収集に特化しており,資料として,日本語を学ぶ人向けにはやさしい日本語書籍(主に児童書),ブックレット,対訳の入った書籍(観光案内書に多い)と各国語で書かれた日本についての書籍,日本人作家の小説も収集している。また,外国人の興味の把握にも努めている。
 公共図書館にも国際交流センターが行う活動を参考にすれば,多文化サービスの幅を広げることができる。
 さらに,電子書籍を活用して,日本語が不十分な利用者に対する書籍の提供として,音声読み上げ,ふりがなを振る機能や翻訳機能で情報のニーズに対応しやすくなると考えられる。
 ここまでの調査でやはり多言語化は重要だと考えられ,本来利用者が必要としている情報を提供することが目的なので,何を必要としているのかという具体的なニーズの把握と慣れない生活環境等の事情を考慮した図書館側の積極的な働きかけがより必要と考えられる。
 電子書籍の導入は,今利用者が必要としている,多文化サービスならば日本での生活の情報等「課題解決型」のサービスに,音声読み上げや翻訳機能によっては利用方法が広がる可能性がある。
 これまで図書員の方々,サービスを提供する側からの視点での調査を行ってきた。これからの調査では,利用者の側からの意見を収集できたらと考えている。


1)日本図書館協会「多文化サービス実態調査1998」1999年3月
2)日本図書館協会「日本の図書館 統計と名簿」2016年2月p.299