《ワークショップ》出版と図書館の新たな枠組みを考える(2016年12月 秋季研究発表会)

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《ワークショップ》出版と図書館の新たな枠組みを考える


 司会・問題提起者:植村八潮(専修大学)
 問題提起者:野口武悟(専修大学)
 討論者:大塚栄一(樹村房)


 わが国の著作権制度上、公共図書館において、非営利・無料の図書貸出は、権利制限規定により著作権者の許可なくして行うことができる。一方、図書館における図書の貸出が出版物の売上を減少させるとして、一部、出版社や作家から批判があり、さらに読者からは、出版社や作家に対する反発も出るなど論争が続いている。
 図書館大会や図書館総合展など図書館関連の大会では、毎年のように公共図書館と出版の関係性についてシンポジウムが開催され、双方から当事者や関係者が登壇し、新たな関係性についての議論もある。
 図書館を「ただの貸本屋じゃないの」と、批判の口火を切ったのは評論家の津野海太郎である。1998年に『図書館雑誌』によせた「市民図書館という理想のゆくえ」で公共図書館における選書のあり方を批判し、論争となった。さらに、文学者の林望は図書館が住民サービスの名のもとに、ベストセラーの貸し出し偏重になっていると批判した。2001年には、作家の楡周平が、「図書館栄えて物書き滅ぶ」と題する文章を発表し、公立図書館が大量の複本(同じ本の所蔵)を購入し、貸し出す状況が、出版不況の原因の一つであると指摘した。
 このような状況を受けて、2002年9月に日本ペンクラブがシンポジウム「激論!作家vs.図書館」を開催した。複本については、2003年に日本書籍出版協会と日本図書館協会により、貸し出し実態調査が実施された。結論から言えば、問題視されるほどの複本は行われておらず、複本問題は決着し、この話題は沈静化したかに見えた。
 2015年2月に日本文藝家協会主催のシンポジウム「公共図書館はほんとうに本の敵?」が開催され、この前後から論争が再燃することになった。
 2002年の日本ペンクラブの記録を読むと、今日に至る論点は出尽くしているといえる。
 作家側からは、「図書貸出に対して補償金を著者に払う公貸権制度の導入」、「貸し出し中心主義からビジネス支援への転換」、「本は借りるものという風潮への批判」、「貸し出し猶予期間の設定」などが提起された。
 一方、図書館側からは、「図書館員は予算の少ないなかで格闘していること」、「図書館が書店での売上げを阻害していることはなく利用者の多くは書店で本を買っている」という反論があった。
 これでわかるように、双方の主張は繰り返されて今日まで続いてきたといえよう。なぜ長い間、有効な解決策が見いだせないのか。そもそも、この論点において「解決」を見いだすことが難しいのは、論点の立て方に問題があり、解に至らない千日手となっているのではないかと考えられる。
 そこでワークショップでは対立構造の枠組みを整理した上で、参加者による自由討議を行うこととした。
 始めに司会者の立場から植村がワークショップの企画意図を述べ、次に出版と図書館の関係を四象限に分けて整理して問題提起とした。第一、第二象限は一般向けで、第一象限には「一般向け・図書館」として「公共図書館」がある。公共図書館に対して、行政の財政悪化や構造改革による予算の削減が求められており、対応策としてアウトソーシング(指定管理者制度、PFI)が進んでいる。また、貸出率や来館者数によって業績評価指標(KPI)がはかられる傾向にある。利用者や首長の意見、要求を受けざるを得ない立場である。第二象限は、「一般向け・出版」で、ベストセラーなどを扱う文芸一般書出版がある。出版不況を背景に、図書館の貸出を販売機会喪失としてとらえる向きがある。第三、第四象限は高等専門向けで、第三象限には「高等専門・図書館」として、大学図書館があり、第四象限に、「高等専門・出版」として、学術専門出版がある。学術専門出版社は、収益を大学の教科書採用や図書館の購入によっていることから、第三、第四象限間の関係は、むしろ良好といえる。
 野口からは「図書館界のおかれた現状と課題」として、図書館の役割、本来求められる機能について考察があり、公共図書館と一般書出版社の対立構は、両者の関係の全体に及ぶわけでなく、一部にすぎないとした。
 大塚は討論者として、専門書出版社の立場から、書籍の権利は著作権者のものであって、出版社には著作隣接権がないとした上で、それでも書籍を生み出すための出版社の果たしている役割は大きく、あわせてなにがしかの投資が行われているとした。
 引き続き参加者からの意見も交えて活発な討議が行われた。