国立国会図書館におけ電子納本制度と出版業界 湯浅俊彦 (2010年11月 秋季研究発表会)

国立国会図書館におけ電子納本制度と出版業界 湯浅俊彦
(夙川学院短期大学准教授)(2010年11月 秋季研究発表会)

1.はじめに
 国立国会図書館・納本制度審議会による2010年6月7日付け答申「オンライン資料の収集に関する制度のあり方について」はオンライン出版物を対象とする新たな電子納本制度を策定し,その収集・保存を国立国会図書館に求めるものである.

 1948年の国立国会図書館法に基づいて日本国内で発行される出版物は納本制度により国立国会図書館によって網羅的に収集され,利用可能とした情報のうち,同法第24条第1項に掲げられた図書,逐次刊行物等に相当する情報を収集するための制度の在り方について」の諮問がなされた.
 諮問理由として国立国会図書館・収書書誌部長から次のような説明がなされた1).
 「今日,インターネット等を通じて出版する事態が急速に進展しております.これらの情報を包括的に収集することができない状態が続くと,出版物の収集を通じた国立国会図書館法第 25条にある『文化財の蓄積及びその利用』という納本制度の目的が達せられないおそれがあります」
 この諮問が出された前年度にあたる2008年度,国立国会図書館は近年急速に市場が拡大し,社会的な注目も高まっている電子書籍について,その流通・利用・保存の実態を図書館との関わりも視野に入れながら把握するために,研究会(湯浅俊彦,北克一,萩野正昭,中西秀彦)を組織して電子書籍の調査研究を実施した.この調査研究では各種統計や歴史的経緯の分析に加え,出版社へのアンケート調査,電子書籍関連事業者(印刷,出版,携帯電話通信,コンテンツ作成・配信等)へのインタビュー用に供されているが,今回の答申によってこの制度とは別に「電子納本制度」が誕生することになる.ここではこの電子納本制度が導入されるに至った経緯を中心に出版業界との利害調整について検討する.

2.電子納本制度導入の経緯

 2009年10月13日,第17回納審議会では,国立国会図書館の長尾真館長から「国立国会図書館法第25条にる者(私人)がインターネット等により利用可能とした情報のうち,同法第24 条第1 項に掲げられた図書,逐次刊行物等に相当する情報を収集するための制度の在り方について」の諮問がなされた.

 諮問理由として国立国会図書館・収書書誌部長から次のような説明がなされた1).
 「今日,インターネット等を通じて出版する事態が急速に進展しております.これらの情報を包括的に収集することができない状態が続くと,出版物の収集を通じた国立国会図書館法第25 条にある『文化財の蓄積及びその利用』という納本制度の目的が達せられないおそれがあります」
 この諮問が出された前年度にあたる2008 年度,国立国会図書館は近年急速に市場が拡大し,社会的な注目も高まっている電子書籍について,その流通・利用・保存の実態を図書館との関わりも視野に入れながら把握するために,研究会(湯浅俊彦,北克一,萩野正昭,中西秀彦)を組織して電子書籍の調査研究を実施した.この調査研究では各種統計や歴史的経緯の分析に加え,出版社へのアンケート調査,電子書籍関連事業者(印刷,出版,携帯電話通信,コンテンツ作成・配信等)へのインタビュー調査,国立国会図書館職員へのアンケート

3.電子納本制度の概要と出版業界との調整答申の要旨は次の通りである2).

 インターネット等で提供される民間の電子書籍,電子雑誌等(以下,オンライン資料)を個別の契約によらないで収集する制度を設ける.

1 オンライン資料を収集する主な理由は次のとおり.

(1)オンライン資料は,現行の納本制度では収集できない.
(2)オンライン資料の収集ができないと,出版物の収集を通じた「文化財の蓄積及びその利用」(国立国会図書館法第25条)の目的が達せられないおそれがある.

2 収集対象となるオンライン資料
 収集対象となるオンライン資料は,同内容の紙媒体のものがあっても収集し,また,有償・無償を問わない.なお,内容による選別は行わない.

3 収集方法
主として,オンライン資料を「発行」した者からの国立国会図書館への送信によって収集することを想定.オンライン資料を「発行」した者は,送信等に関する義務を負う.

4 利用に当たっての想定
基本的に図書館資料と同等の利用提供を行うことを想定.

5 経済的補償
オンライン資料の収集では,送信のための手続に要する費用を「納入に通常要すべき費用」に相当するものとして考える.

6 罰則規定
現段階では,過料も含め罰則規定は設けないことが妥当である.

7 著作権等の制限
オンライン資料の収集を契約によらないで行うため,著作権法等の制限が必要である.

 すなわちこの「電子納本制度」を導入することによって,これまで見送られてきた電子書籍,電子ジャーナル・デジタル雑誌,ケータイ小説などのオンライン系電子出版物の制度的収集が可能となるのである.
 このときオンライン系電子出版物を販売する民間出版者との利害調整が必要となってくることは明らかであろう.なぜならば国立国会図書館における資料提供によって民間の電子出版市場を阻害すれば新たなコンテンツの再生産を損ねることにな り,そのことは「文化財の蓄積及びその利用」という納本制度の趣旨に反するからである.
 国立国会図書館の長尾真館長は次のように発言している3).

(1)国立国会図書館には全ての(オンライン)出版物が集まり,保存され,後世の人達の利用に供せられるようになる必要がある.
(2)国立国会図書館にアクセスすれば日本中の(電子)出版物の所在が分かるようにする.
(3)検索結果の資料が国立国会図書館のディジタルアーカイブにあれば,アクセス料を出版社に支払って借りられるようにする.
(4)電子出版物を買う人は,国立国会図書館のディジタルアーカイブから買って,料金は出版社へ支払う.
(5)こうすれば各出版社がディジタルアーカイブを維持する必要が無くなる.

 電子出版の時代を迎え,国立国会図書館の「電子納本制度」が出版社によるコンテンツの再生産を阻害せず,むしろ支援するような新しいしくみを確立することが必要である.

1)国立国会図書館「第17回納本制度審議会議事録」(2009年10月13日)p.4
 http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/17nouhin_gijiroku.html
 (引用日:2010-11-03)

2)国立国会図書館・納本制度審議会「答申.オンライン資料の収集に関する制度の在り
方について」概要
 http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/data/s_toushin_5gaiyou.pdf
 (引用日:2010-11-03)

3)長尾真「国立国会図書館における資料の大規模ディジタル化と電子納本制度」(全国図書館大会奈良大会第 11分科会「電子出版と図書館」発表資料,2010年9月17日)