図書館におけるヤングアダルト向け資料の検証と今後の展開  村木美紀 (2009年11月 秋季研究発表会)

■ 図書館におけるヤングアダルト向け資料の検証と今後の展開
  (2009年11月 秋季研究発表会)

 村木美紀

 本研究では,公立図書館が提供しているヤングアダルト向け資料の現状と今後の展開を検証することを目的に,(1)「ヤングアダルト系出版物」の整理,(2)図書館における「ヤングアダルト系出版」物の取り扱い,(3)ヤングアダルト向け資料の分析を行った。
 ヤングアダルト系出版物には明確な定義はないものの,マンガ・ライトノベル(BL*1を含む)・ケータイ小説を指すことが多い。これらの資料については有害図書としてしばしば問題になり,図書館の蔵書にする是非が問われる。発表では2008年の堺市のBL問題,マンガの選書基準を提示した。図書館のヤングアダルト向け資料=ヤングアダルト系出版物でないことが指摘されるひとつである。さらに,日本において80年代にひとつのブームを築いたヤングアダルト文学とは異なることも付け加えておく。
 図書館のヤングアダルト向け資料の分析は,半田の研究(80年代),公立図書館の現場からの報告(90年代),公立図書館のフィールドワーク・ブックリスト(2000年代)から行った。「日本のヤングアダルトサービスは出版社からの働きかけによって発展してきた」と言われている所以であるヤングアダルト出版会についても確認した。
 その結果,(1)ヤングアダルト向け資料の蔵書構成は,ヤングアダルト系出版物も含むが,児童書と一般書からも多く選定されており,圧倒的に一般書が多いこと,(2)資料は図書だけではないことが明らかになった。特に公立図書館のフィールドワークでは
・図書・雑誌・マンガ・文庫・絵本といった様々な資料が用意されている
・一般資料と児童資料は複本や流用で対応し用意している
・芸術・音楽の資料やAVコーナーのそばにヤングアダルトコーナーを設けたり,カフェのようにハイカウンター席を設置するなど,コーナーの位置や雰囲気作りも重要
ということ,更に,ヤングアダルト系出版物のマンガや文庫のみの棚を設けてヤングアダルトコーナーとしてもうまくいっていないこと,文学・進路本・ファンタジーを並べるだけではヤングアダルトの興味を惹きつけられないことも明らかになった。
 さらに,今回の調査の過程において,公立図書館における問題点が浮き彫りになった。
(1)約半数の館がヤングアダルトサービスを実施していない
(2)ヤングアダルトサービス専任担当者がいない
(3)ヤングアダルト系出版物=ヤングアダルト向け資料だと捉えている館があること
(4)ヤングアダルトサービスの予算枠が無いため,児童もしくは一般の資料費からヤングアダルト向け資料を購入しなければならない。その場合,選書リストや購入データが児童もしくは一般に分散してしまいヤングアダルトのものとして形が残らない
(5)ヤングアダルトのニーズと“大人の思惑”の乖離
 ヤングアダルトサービスは,児童資料から一般資料への橋渡しを行うことや生涯にわたる図書館利用者を育てることなどが目的である。そして半田の研究からもわかるように,資料提供重視からプログラム重視のサービスにシフトしていくとともに,落書きノートや掲示版を用いてヤングアダルト同士がコミュニケーションを図れるようサービスを行ってきた。これらが,メディアの多様化,公立図書館の役割やサービスの変化に伴って変わりつつある。例えば海外ではチャットなどwebを用いた宿題支援,オンラインシンポジウムの開催,ダンスや演劇の舞台としての空間提供,展示,館内でダンスダンスレボリューションを行うなどのゲーム大会*2といった報告がある。
 つまり,今日では図書館・日常生活問わずwebの活用や電子書籍といった電子化の波に乗っかっており,ガジェットの人気も高いこと,図書館は静かな場所だけでなくコミュニケーションの場として活用されてきていること,そもそも図書館という施設がコミュニティセンターでミュージアムでシアターであって図書館であるというようにその機能と役割が融合してきていることから,図書館サービスは今後,融合型・ハイブリッド化していくことが考えられる。ヤングアダルトの,好奇心が旺盛で,新しいもの好きで,ガジェットや情報機器などの操作に長けているという特徴を活かしてヤングアダルトサービスを行えば,ひとつのサービスモデルを確立することができよう。そのノウハウを他の年代に移植・展開していけば,従来図書館では厄介者扱いされがちなヤングアダルトから図書館サービスを盛り上げていくことができるだろうし,学校図書館への展開もスムーズに行うことができるはずである。
 発表後の質疑応答では,ヤングアダルトサービスの「資料論→プログラム論→融合型・資料のハイブリッド化」というモデルの変遷についてや,今後の展望についての確認といった質問をいただいた。時間が短く発表で充分に説明できていなかったということであり,今後はもう少し具体的な話ができるように研究を進めていきたい。

*1 BL:ボーイズ・ラブ。男性どうしの恋愛を描いたもの。
*2 ヤングアダルトだけがターゲットではないが,2008年11月には全米を中心に“National Gaming Day”(図書館でゲームをする日)も開催されている。

(初出誌:『出版学会会報126号』2010年1月)