岡山の出版と岡山文庫  真鍋瑞貴 (2009年11月 秋季研究発表会)

■ 岡山の出版と岡山文庫 (2009年11月 秋季研究発表会)

 真鍋瑞貴

1.「岡山文庫」の概要
 岡山文庫は,1948年創立の日本文教出版社によって,創立15周年記念事業の一環として1964年から創刊された。2009年12月までに,262巻が発行されている。岡山県の自然,文化などあらゆる分野に取り組んでおり,約50%が写真と図版で構成されている。また,通常よりも安い価格で購入できる会員制度を取っており,現在の会員数は1000人弱である。歴史を持つ地方の文庫には,「岡山文庫」の他に以下のようなものがある(次表参照)。

文庫名 企画団体 創刊年 点数
 のじぎく文庫  神戸新聞総合出版センター 1958 234
 みやま文庫  群馬県立図書館 1961 193
 ふるさと文庫(千葉)  崙書房 1977 192
 ふるさと文庫(茨城)  筑波書林 1977 500(完)


2.岡山の出版
 岡山の出版は教科書の発行から始まり,新聞,雑誌の発行となる。1872年,岡山で一番歴史が古い書店「吉田書店」が創立した。最初は書店のみだったが,明治中ごろには出版にも手を染めた。現在は「研文館吉田書店」という社名で岡山市北区栄町商店街に店を構えている。吉田家は創始者の吉田朔七(さくひち)氏を始め,岩次郎氏,堅次郎氏,徳太郎氏,研一氏と岡山の出版に携わってきた。中でも,郷土史の復刻に情熱を注いだ徳太郎氏の想いは,現在の日本文教出版社に根強く引き継がれている。
 日本文教出版社は,1948年8月に岡山県教育組合幹部を中心に教育関係者が集まって誕生した。子供の教育を目的に作られた会社だったので創立当初は主に学習書を発行していた。1953年,4代目社長に就任した吉田徳太郎が,それまで発行していた教育関係書だけでなく郷土の一般図書にも力を入れ始めた。1957年からは生徒手帳の作成も始めた。そして1963年,徳太郎の次男・研一が5代目社長となり,創立15年を記念,誕生したのが「岡山文庫」である。
 そのほか岡山の出版社として,1955年に創立された福武書店,現・ベネッセコーポレーション,山陽新聞社の出版,1992年に設立された吉備人出版などがある。
 以上のような出版活動を行なう岡山の地で「岡山文庫」が定着し,長く続いている秘訣を日本文教出版会長の藤原英吉氏は,「会員制で定価を維持していること,年に6巻のペースを守っていること,著者の発掘と著者の協力があること」と分析している。現在の会員の平均年齢は75~76歳である。昔は個人でも会員になってくれていたが,今は企業や学校などで購入するケースが増えているという。執筆者は,大学の研究室や民俗学界,名の通った郷土史家などから糸を手繰るように探し出して,依頼していった。

3.岡山の図書館,書店利用
 岡山の読書に対する県民性を探るため,図書館と書店の利用状況についても調査した。岡山県立図書館の新館が04年に開館した。新館の開館前は,年間の個人貸出冊数は10万冊前後で推移していた。それが開館翌年の2005年には100万冊を超える圧倒的な個人貸出冊数となり,一気に全国1位に躍り出たのである。08年度の利用状況は,入館者数(106万5031人),貸出冊数(130万5891冊)とともに,3年連続で全国一だった前年度より増加し,過去最多を記録した。
 資料費は新館開館に向けての緊急整備が始まる前までは,4700万円程度で推移していた。開館前年度(2003年)には資料の緊急整備という考えから,「毎年新刊図書の70%程度の収集予算を経常経費として手当てする」という方針が打ち出され,資料費は約2億2000万円で全国1位となる。その後も,東京都と全国1,2位を争う高い資料費を続けている。また,近年の岡山県の市区町村立図書館の貸出数も全国の3分の1以内をキープしており,岡山の図書館利用は活発であることがわかる。次に書店利用状況についてである。
 経済産業省の「商業統計表」(2007年)から岡山を中心に書店利用の傾向を探った。信越・北陸地方の5県すべてが人口一人当たり書籍・雑誌購入額,人口千人当たり書籍・雑誌売場面積とも15位以内に入っている。この5県以外で購入額,売場面積とも15位以内に入っているのは香川と岡山である。この2県は海を面した隣り合う県であり,風土も似ているといえるのではないだろうか。岡山は1988年の統計でも購入額,売場面積ともに11位であり全国と比較し書店利用も高いことがわかる。

4.岡山文庫と地方出版
 図書館,書店の統計から見えてくるのは,岡山県民が読書を好む傾向にあるということである。岡山の出版社を見てもそれぞれ異なるユニークさがあり,こうした岡山の出版土壌の上に,「岡山文庫」は生き続けてきた。「岡山文庫」が地方出版の礎となって出し続けていける可能性はまだまだ残っている。そして,岡山の出版は活発であるということが以上の結果からいえるのではないだろうか。今後の課題として,地方出版の将来を模索する中で,地方の文庫や定期刊行物の存在をキーポイントとして考えていきたい。

参考文献
日本文教出版 『道―日本文教出版株式会社50年小史』 日本文教出版 1998
日本文教出版 『道―日本文教出版株式会社20年小史』 日本文教出版 1968
日本図書館協会 『地方の出版1』 日本図書館協会 1975
菱川広光 『県民に開かれた図書館―新岡山県立図書館の誕生』 日本文教出版 2009

(初出誌:『出版学会会報126号』2010年1月)