「電子書籍がもたらす学校図書館の利用者サービスと学びの変容」向井惇子(2017年12月 秋季研究発表会)

電子書籍がもたらす学校図書館の利用者サービスと学びの変容

向井惇子
(立命館大学大学院文学研究科博士課程前期課程)

 本発表は、電子書籍を導入した学校図書館の導入事例から電子書籍が学校図書館の利用者サービスと生徒の学びにどのような影響を与えるかについて考察を行い、学校図書館の利用者サービスと学びの変容について考察する。本研究の目的は、学校図書館の視点から出版ビジネスが今後どのように展開していくのか、またそれに伴い学校図書館の役割がどのように変化するのかについて明らかにすることである。

 研究方法としては、事例分析を行う。事例分析の対象は、日本体育大学柏高等学校である。分析対象校は、2016年2月から日本電子図書館サービスの電子図書館サービス「LibrariE」を導入した。また、電子書籍を生徒に提供する電子図書館と従来型の紙媒体の図書や逐次刊行物等の図書館資料を閲覧・貸出に供する来館型図書館の2つの運営をおこなっている。利用者行動の変化がどのように顕在化し、それが生徒の学びにどのような影響を与えたのかを、利用統計とインタビュー調査によって明らかにした。

 日本体育大学柏高等学校は、来館型図書館(メディアセンター)を創設時より運営しており、1997年に現在の場所に移設した。メディアセンターの蔵書数は2017年10月25日時点で32,385冊である。また、電子図書館(日体デジタルライブラリー)は2016年5月より導入された。日体デジタルライブラリーのタイトル数は2017年11月1日時点で858タイトルである。そのうち、購入タイトルは726タイトル、独自タイトルは132タイトルであった。独自タイトルは主に、センター試験の過去問題、柏高等学校の進路指導部が発行している『未来を拓く』という進路指導用のコンテンツである。

 利用統計の結果として、導入初年度はメディアセンターの貸出冊数が電子図書館の貸出点数のほぼ2倍であったが、導入2年目の2017年度はメディアセンターと電子図書館の利用者数・貸出点数ともにほぼ同数であった。これは、「朝の読書活動」の時間に読まれる文芸書だけでなく、「卒業論文」や「進路指導部の資料」といった学校独自のコンテンツや「大学入試過去問題集」を電子図書館で閲覧できるようになり、アクセス制限なく貸出が可能になったことが考えられる。これに加え、電子図書館導入初年度の電子図書館ガイダンス率が平均30%であったのに対し、導入2年目は新入生には電子図書館ガイダンスを100%実施したことも要因の一つと考えられる。また、校舎内全域にWiFi環境を整備し、生徒・教職員全員がiPad-miniを使って電子図書館を利用できることも、在校生が電子書籍を多読することに貢献している。

 さらに、授業において電子書籍を積極的に利用する教員の存在も大きい。例えば、社会科において、定期的に情報が更新されるガイドブック等を使ってレポートを作成する授業がある。紙での書籍は情報が古いものがあるが、電子書籍では常に最新のコンテンツを用意することができる。過去、紙で受入を行ったガイドブックも来館型図書館にはあり、電子書籍での提供も行っている。生徒たちは、自身の好きな方法で情報にアクセスし、授業に参加していた。

 しかしながら、2学年から3学年に、1学年から2学年になる継続利用の生徒の利用率は、最大3分の1に減少していることが明らかになった。これは、導入2年目において、継続利用者の2学年、3学年に対し、電子図書館ガイダンスを実施しなかったためと考えられる。インタビュー調査を行った学校図書館司書教諭は「継続利用者へも引き続き学校図書館のガイダンスを行っていく」と述べている。

 学校図書館での電子書籍貸出サービスはまだ始まったばかりである。電子書籍の高校生向けコンテンツ数も未だ十分とは言えない。しかし、出版ビジネスにとっても新たな利用者の獲得や商用コンテンツの開発は重要な取り組みになると思われる。

 今回の調査から、電子図書館は探求型学習など、教育に寄与する学校図書館の新たな利用者サービスを広げる可能性があることが明らかになった。

 今後の課題として、電子出版を活用して学校図書館の利用者サービスの実証実験を行い、学校司書・学校図書館司書教諭や学校教職員、在学生に対してアンケート調査・インタビュー調査を通じて、学校図書館の今後の在り方について検討したいと考える。