《第40回(2018年度)日本出版学会賞 受賞記念講演会報告》 「近世民衆の蔵書と読書――仏書の読者をめぐって」 横田冬彦 (2019年7月20日開催)

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《第40回(2018年度)日本出版学会賞 受賞記念講演会報告》


「近世民衆の蔵書と読書――仏書の読者をめぐって」


横田冬彦 (京都大学名誉教授)


 第40回日本出版学会賞受賞作である『日本近世書物文化史の研究』(岩波書店)においては、複数の文書に含まれる蔵書目録や日記の丹念な調査を通じて、益軒本や農業書、医書などの書物が一般の人々の中でどのように読まれ、用いられていたのかが詳らかにされた。このたびの講演では、それらの研究でも用いられた森長右衛門、依田長安、伊能景利らを通じ、同書には収めることのできなかった仏教書をとりあげて、史料紹介とともに内容分析と解説が行われた。

 横田氏によれば、従来の仏教書研究は、作り手や制度、教団に即した議論が中心であり、テクストの内容水準から読者を類推し、安易な二分法によってその教養・経済的程度を同定する傾向がある。これらの批判的検証として、在郷の名主や商家などに残された一次資料を新たな視点で読みなおすことは、必ずしも特権的な階級ではない地場の人々にとって、仏教書がいかなる意味をもつ書物であったのかを知る手がかりになる。

 講演では河内国・森長右衛門以下、享保年間における各地のほぼ同世代の人物5名にかかわる史料から、儒学・軍書・実用書等で構成されることの多い平均的な蔵書が、事業の失敗や自身の加齢、家族の問題などを契機に変化していくことや、他宗派の仏書を思想的な営為として読むことなどが指摘された。また、それらを独自の脈絡で編集して人生訓・家訓としたり、一種の説話集として娯楽的に受容している例など、豊かな「読書」の実態が立体的に写し出された。複数の史料を同時代的に比較した考察は、書物と社会、および人々の人生とのかかわりを考える上で、きわめて示唆的な方法といえる。

 およそ100分におよぶ講演ののち、26名の参加者との間で質疑応答があり、充実した記念講演会となった。


日 時: 2019年7月20日(土) 14時00分~16時10分
参加者: 26名 (会員14名、一般11名、学生1名)
会 場: 専修大学神田キャンパス 5号館4階542教室

(文責:柴野京子)