《第39回(2017年度)日本出版学会賞受賞記念研究会報告》 「出版メディアと「アイドル」の関わりとその展望」 田島悠来 (2018年9月15日開催)

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《第39回(2017年度)日本出版学会賞受賞記念研究会報告》


出版メディアと「アイドル」の関わりとその展望


田島悠来 (会員、帝京大学)


 本研究会では、田島悠来著の『「アイドル」のメディア史:『明星』とヤングの70年代』(森話社、2017年)の第39回日本出版学会賞奨励賞の受賞を記念して、本書における研究成果を踏まえつつ、「アイドル誌」の1980年代以降の移り変わりを見つめながら、「出版メディアとアイドル」のこれまでの関わりと今後の展望について参加者と共に考え、議論を行った。参加者は、会員8名、非会員5名の計13名(発表者含む)であった。
 まず、発表者である田島会員より「アイドル」文化の黎明期としての1970年代の状況について『「アイドル」のメディア史』に基づいて整理された。1970年代はカラーテレビの普及とオーディション番組や歌番組といったコンテンツの放送開始を背景に、若くて親しみやすい歌手としての「アイドル」が輩出され始めた時代であり、『明星』(集英社)、『平凡』(平凡出版)がそうした歌手の等身大性に焦点を当てた誌面作りで躍進した。「アイドル誌No.1」としてこの時代を代表、象徴すると考えられる『明星』を手がかりに雑誌にあらわれた「アイドル」の等身大性を探ると、①学校に通う生徒、②家族の中の子ども、さらには、よき息子・娘という二つの側面から表象されており、これをよりマクロな視点から見ると、①若者文化と親和性が高いもの(大人社会への対抗文化)、②土着性を感じさせるもの(大人社会との連続性)として、旧世代的な失われつつあるものの幻影として機能したこと、リアルタイム性を特徴とするテレビとは別の役割を雑誌が担っていたのではないかとの考察がなされた。
 次に、80年代以降、こうした70年代の共時的な部分が現代に至るまでにどのように変容したのかにも目が向けられた。「雑誌の時代」にあたる80年代において、『明星』『平凡』の70年代の隆盛に乗じて派生的な雑誌群が相次いで創刊される。それらの「アイドル誌」は、「男子向け」「女子向け」というように、読者の性別毎にカテゴライズされるかたちで細分化されており、「アイドル」を受容するメディア空間がジェンダーによってセグメント化されるようになっていく。90年代初頭までに「男子向け」は休刊・廃刊を余儀なくされる一方で、「女子向け」はジャニーズ人気で急成長していくが、双方の読者ページに着目すると、「男子向け」では異性への関心=性体験、性的な欲望、「女子向け」では異性への関心=恋愛という性をめぐる非対称な構図が形づくられ、「アイドル誌」は、異性の「アイドル」を性的な対象や擬似的な恋愛の対象とみる「アイドル」受容のあり方を構築し維持することに機能していく。他方、マニアックで熱狂的なファンによって担われていく「アイドル」を批評するミニコミ誌の存在は、「アイドル」文化の「大衆的(マス/ポピュラー)」な解体、サブカルチャー化(下位文化、オタク文化≠若者文化)という変貌を物語る。 
 そして、2000年代から現在にかけて、紙媒体の出版物の長期傾向、若年層を中心とした活字離れが叫ばれるなかで、片や「アイドル」文化は成熟期を迎え、「アイドル」としてファンに受容されるのは、3次元、2次元、2.5次元と多様な領域に範囲を拡大させており、それぞれに関連した雑誌=「アイドル」関連雑誌が刊行され人気を博している。『Myojo』をはじめ老舗の「アイドル誌」のみならず、新しく発刊したもの、単発の企画・特集で人気の「アイドル」を取り上げるものと多岐に渡っている。こうした「アイドル」関連雑誌においては、「アイドル的なものの見方」が様々なメディア的な存在に向けられていくが、「アイドル的なものの見方」とは、①対象への熱量の大きさ、熱狂度の高さ、②対象へ深い愛着を抱き、献身的で、情報や商品の収集能力に長けているという特性を持つ、であるがゆえに、消費行動へと結びつくことになる。つまり、「好きなアイドルの記事や写真が掲載された出版物はすべてくまなくチェックし、場合によっては複数冊同じ雑誌を購入する」態度として表出する。同時に、昨今、少年マンガ誌を女性読者が、新聞社系週刊誌を女性読者がというように、社会的に「男性向け」とみられてきたジャンルに「女性読者」が乗り入れ、読者層の性別カテゴリーに越境が見られ始めている。
 以上から、近年の出版不況のなかでも「アイドル」関連雑誌は存在感を示し、ジャンルやジェンダー横断的に“「アイドル」を扱えば雑誌が売れる”状況を引き起こしており、紙雑誌が生き残りをかけるにあたって、いかに「アイドル的なものの見方」をする熱狂度の高い層を読者として誘引するかが鍵になるのではないかとの提言がなされた。しかし、質疑応答においては、2次元と3次元のカテゴリー、宝塚といった他ジャンルとの比較により多様なジャンルにおける差異を慎重に見極めること、ファンの濃淡(年齢層や経済的な状況の差も含めて)を意識する必要性、「アイドル誌」以外のジャンルの雑誌に「アイドル」が介入することをどこまで許容することができるのか、そもそも紙媒体を生き残らせる必要があるのだろうか等、田島会員の指摘に対する検討、議論がなされた。

日時: 2018年9月15日 13:00~
会場: 上智大学四谷キャンパス 7号館共用室A

(文責:田島悠来)