会長就任に際して 植村八潮 (会報142号 2016年10月)

会長就任に際して
植村八潮
(第11代日本出版学会会長・専修大学教授)

 
 私が日本出版学会に入会したのは、1996年、吉田公彦第6代会長のときです。しばらく、いわゆる幽霊会員の時期を経て、植田康夫第8代会長のときに理事に選ばれ、事務局長として植田会長体制を4期8年、続く川井良介会長時代に副会長として3期6年、さらに前任の芝田正夫会長時代にも副会長として1期2年、務めてきました。
 事務方の仕事は嫌いではないので、主に学会事務をしてきたのですが、いつの間にか理事在職期間も16年と長きにわたりました。諸先輩の指導に従って学会運営をしてきただけなのですが、気づいてみれば、年月だけは立派な古参会員です。私より年齢が上の理事は、数名の方を数えるほどとなりました。そのような経緯もあってか、去る5月14日に東京経済大学で開催された日本出版学会総会において、第11代会長に選ばれました。会長としてさらに汗をかき学会の発展につくせ、という声が、空耳のように聞こえてくるようです。
 とはいえ、歴代の会長のお名前を列記させていただくと、野間省一、布川角左衛門、美作太郎、清水英夫、箕輪成男、吉田公彦、林伸郎各氏らの錚々たるお名前が連なります。そのなかでは出版学の理論構築と精緻化に貢献された清水、箕輪、吉田、林各氏が、この数年間で鬼籍に入られたことがとても惜しまれます。
 一方、そこに続く前述した植田康夫、川井良介、芝田正夫各氏は、現役ばりばりの研究者であり、その研究業績、教育指導、発言力のどれをとっても素晴らしい先生方です。こうなると私では若輩会長の印象は否めないものがあります。
 出版学会の財務状況も、それを取り巻く出版界の経済状況同様に厳しいものがあります。実務者としての私の経験に期待する面もあるかと思います。まさに微力ながら学会の発展に貢献できればと思う次第です。
 インターネットとデジタル技術によるメディアの変容は、グーテンベルクによる金属活字印刷術の発明に匹敵する、あるいはそれを凌駕するとまでいわれています。当然ながら、出版を含むメディア研究の対象も分析手法も理論も大きな変化期にあります。
 メディアが激変し、人々が出版再編に取り組む中で、出版学会もまた革新していかなければなりません。数年後に迫る50周年にむけて、よりいっそう活発な出版研究を行い、出版の将来像に対する示唆に富む研究成果を披露できればと思っています。