会長に選出されて 芝田正夫 (会報138号 2014年8月)

会長に選出されて
芝田正夫

 
 5月に開催された総会で第10代会長に選出されました。2年間の任期です。会員の皆様の学会活動へのご協力をお願いする次第です。
 日本出版学会は,1969年に設立されました。私が入会したのは1979年,布川会長のときでした。
 1985年に私の勤務する関西学院大学で秋季研究発表会が開催され,シンポジウム「いま読者をどうとらえるか――出版社,取次,書店の立場から」では,清水英夫会長(当時)の基調講演のあと,私もパネリストとして発言したことを懐かしく思いだしています。
 学会としては,45年の歴史を重ねてきたわけですが,これまで先輩のみなさんがご苦労されてきたのは,「出版学とは何か」ということだったと思います。川井前会長は次のような指摘をされています。「一般に,研究者がいて,学会が成立するのではあるが,出版学会は,学会を設立することによって,研究者を育成し,出版学の確立を図ろうとした『逆転の発想』によって誕生した学会なのである」(『日本出版学会会報』122号,2008年)。
 こうして誕生した本学会ですが,最近は出版をさまざまなアプローチから研究する研究者も増えてきました。一方でメディアの大きな変容が急速に進むなかで,活字メディア・出版メディアをめぐる状況も急激に変化しています。そうした動向を探るとともに,その将来像を多方面から模索する研究も幅広く行われています。
 このような状況のなかで,多くの諸先輩のご努力で,研究活動が活発化し,そのなかで,若い研究者も育成されてきました。会員数は380名を超え,学会紀要である『出版研究』は44号に達し,春秋の研究発表会を毎年開催するとともに,10に及ぶ研究部会による研究会開催などの活動が行われてきました。
 さらに,出版学の国際的な研究交流を進める「国際出版研究フォーラム」は1984年に第1回が開かれ,今年10月に開催されるソウル大会で16回目となります。
 「出版学の確立」を希求して設立された本学会は,以上のように45年の間,大きな発展を遂げてきました。個人的な思いになりますが,活字文化もしくは文字文化の危機が叫ばれる今日,文字・活字文化とは何かを明らかにし,また出版文化を支えてきた「言論の自由」の問題,読者の問題や出版流通,それに出版の将来像を,大きな視点の中で探究していくことが必要だと考えています。
 また同時に,現在の多様な出版活動になんらかの形で役立つ研究活動も求められています。こうした活動に,会員のみなさんには積極的にご参加いただき,「出版学のいっそうの確立」に向けて,ご協力をあらためてお願いします。