日本出版学会に期待すること 相賀昌宏 (会報131号 2011年11月)

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日本出版学会に期待すること

相賀昌宏 (日本出版学会創立45周年記念事業委員会 委員長)


 出版学とは,出版業という実業の上に立った学問だと思いますが,いまは学問的探求と現実が多少乖離しているようにもみえます。そういう意味で,出版学会には,学問と実業を結びつけることを期待したいと考えています。
 ドイツの図書流通連盟は今年6月,2025年に書籍市場がどうなるのかを予測して,出版社,取次,書店,業界団体などそれぞれがどう対処すべきなのかをまとめた「55のテーゼ」を発表しました。書籍市場が25%減少するという予測など,とても刺激的な内容ですが,これは議論を促すことを意図して作られたのだと思います。
 日本の出版業界も,いろいろな問題を抱えていますが,できれば,出版業界と出版学会でこうした問題についてすり合わせをしてみたいと思っています。
 出版業界の問題に対して,出版学会が学問的な分析に基づく指摘や,現状に対する対案を出して,それを現実の業界とすり合わせることで,現状を改善するための行動指針を作っていくことができるのではないでしょうか。
 また,「出版」の定義はいくつもあるようですが,その多くが活字印刷を前提にしているようです。しかし,実際の社会には,機能障害などを含めて文字が読めない人は多く,文字や活字印刷を前提にした「出版」では,そういう人々を除外してしまうことになると思います。
 情報の入手が困難な人に情報を提供することも「出版」だと考えれば,定義は変わってくるのではないでしょうか。出版業界として東日本大震災の被災地に対するさまざまな支援活動を行っていますが,本が読めない人々への応援もひとつの出版活動だと捉えています。そうやって情報を伝えるためにいろいろと工夫することが出版の仕事だと考えれば,「出版」の領域は広がり,ビジネスとしても新たな可能性が期待できます。
 現実の社会,そして人間というものから,もういちど,「出版」について学問的に検討し,定義をし直す必要もあるのではないかと考えています。それも日本出版学会に期待したいことです。

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 日本出版学会創立45周年記念事業委員会の委員長に就任した相賀昌宏氏(小学館代表取締役社長,日本書籍出版協会理事長)に,出版学会に対する期待について談話を寄せていただいた。