追悼・吉田公彦氏 (会報140号 2015年10月)

■追悼・吉田公彦氏

〈吉田公彦氏 略歴〉

1930年 熊本県水俣市生まれ
1954年 東京大学経済学部卒
1963年 現代ジャーナリズム研究所設立,事務局長
1964年 日本エディタースクール創設
1969年 日本出版学会設立。発起人の一人。理事
1971年 日本エディタースクール出版部設立
1988年 出版教育研究所設立
1994年~1998年 日本出版学会会長
2015年 逝去(5月9日)

〈吉田公彦氏の主な業績(順不同)〉

1.日本エディタースクールを創設し,出版人の教育・育成に尽力した。
2.同校で出版に関する公開セミナーを継続的に開催した。
3.日本出版学会の設立に尽力し,その後理事として活躍するにとどまらず,理事会,研究会,総会などの場の提供など,本学会を多面的に支援した。
4.日本出版学会会長として本学会の発展に尽力した。
5.出版研究の国際交流を推進した。
6.日本エディタースクール出版部を設立し,出版史,出版論,出版実務等に関する出版物を発行した。
7.日本出版学会の『出版研究』,『日本出版史資料』等を同出版部で発行した。
8.出版に関するさまざまな論文を発表した。

〈論文等(刊行順)〉

「言語過程としての出版――対象の設定」『出版研究』13,1982年,10~42頁
「出版における複製の構造――同一性について」『出版研究』16,1985年,197~225頁
『日本における出版教育:日中出版研究者交流会議報告書』1990年
「出版学の構築をめぐる問題」『出版研究』24,1993年,91~99頁
「出版学」『出版研究』30,1999年,9~15頁(『出版学の現在』再収,2008年,日本出版学会,71~77頁)
「創立35周年座談会」『出版学の現在』,2008年,9頁~44頁
「出版理論・教育の研究分野の活動」『出版学の現在』2008年,144~150頁


追悼 吉田公彦さん

川井良介

 日本出版学会第6代会長吉田公彦さんは,この5月,逝去されました。
 吉田さんには,長兄谷川健一(民俗学者,文化功労者),次兄谷川雁(詩人,運動家)がおり,東京大学経済学部に学びました。在学中は,『東京大学学生新聞(現東大新聞)』の発行に携わりました。卒業後は,書評紙『日本読書新聞』で活動しました。その同僚には,作家三木卓や渡辺京二がいたといいます。
 このような活動を経て,現代ジャーナリズム研究所の結成に至りました。その事務局長を務めるなかで,出版を対象に「地に足をつけて現場の論理を組み立てる」という発想を得,それが,後の日本エディタースクール設立の原点となります。
 また,現代ジャーナリズム研究所における議論が,出版学の構築や出版学会設立の大きな流れの一つとなりました。
 1969年,日本出版学会が設立されますが,初期有志,布川角左衛門,美作太郎,清水英夫,信木三郎,金平聖之助ら6名の一人として大きな役割を果たされます。
 吉田さんの出版界や出版学会への貢献は,大きく分けて,日本エディタースクールと出版学会の活動があります。
 スクールは,多数の出版人の教育や育成に尽力されました。また,同出版部は,『出版研究』『日本出版史料』を発行するだけでなく,出版史,出版論,出版実務書等に関する多くの書籍を出版しました。
 学会への貢献は,会長,理事として務めただけでなく,総会,研究会,理事会などの場を提供されるなど,多面的に支援されました。ある時期,本学会は,真に吉田さんのエディタースクールに助けられました。また,出版について原理的な論文を発表されています。
 このようなことから,本学会は,2013年に吉田さんに「日本出版学会特別功労賞」を進呈させていただきました。
 個人的には,吉田さんに,新宿の文壇バー「風紋」につれていかれたことがあります。その折り,評論家安田武の姿をみかけたことは,今では懐かしい思い出です。
 ところで「文学青年」という語句があります。それに倣えば,大先輩の吉田さんを,お叱りを承知しても,「出版青年」と評するのは小生一人でしょうか。
 吉田公彦さん,日本出版学会のために,誠にありがとうございました。ご冥福をお祈り申し上げます。