雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムが目指すもの  梶原治樹 (会報127号 2010年3月)

■ 雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムが目指すもの (会報127号 2010年3月)

 梶原治樹

 メディア環境が激変し,大手出版社の経営状況の厳しさが伝えられる中,雑誌メディアはどのように変容していくべきなのだろうか。ビジネスモデルや組織運営の変革が求められている,ということはもはや誰の目にも明らかになっていることだろう。
 2008年11月に世界中の雑誌社経営者を集め開催された「アジア太平洋デジタル雑誌国際会議」が,出版社トップの考え方を変えるきっかけの一つになった。同会議でのキーノートスピーチに立った角川グループホールディングスの角川歴彦会長は「次世代のためにイノベーションを起こす必要がある」「書籍,雑誌,そして顧客のデータベースを構築し,大同団結してプラットフォームを考える必要がある」と述べ,出版社自らが意識革命を起こすべきと主張した。
 それを受ける形で,社団法人日本雑誌協会では,2009年1月よりデジタルコンテンツ推進委員会を常設委員会として設立。雑誌デジタルコンテンツの可能性,将来性を探るさまざまな活動を行っていくために,同協会の委員会としては例を見ない,51社107人という多数の委員が参加している。
 しかし,雑誌のデジタル化という課題を,出版社だけで解決することは到底できない。そのため,さまざまな立場の企業とより密接な関係を築くことを目的に,雑誌コンテンツデジタル推進コンソーシアムが2009年8月に結成された。2010年2月現在では,印刷会社,広告代理店,Webメディア,ITベンダー,出版販売会社など,計45社が参加をしている。
 同コンソーシアムの活動の一つとしてあげられるのが,総務省のICT利活用ルール整備促進事業(サイバー特区)の2009年度実証実験として採択された,雑誌コンテンツのデジタル配信実験である。委員会に加盟する出版社から91誌が記事コンテンツを提供し,パソコン上で雑誌記事が閲覧できるポータルサイト「parara」を構築。読者モニター約3000人に記事配信を行い,ユーザの利用動向等を調査する,というものである。また,一部の雑誌記事を用いて読書専用端末や携帯ゲーム機で閲覧可能なように変換し,少数のモニターに対して聞き取り調査などを行っている。
 では,雑誌のデジタル化に向けての課題とは何か。現在同コンソーシアムでは,雑誌デジタル化に向けての課題を「ライツ管理」「ワークフローとデータの整備」「ビジネスモデルの構築」の3つに大別している。
 まず一番目の「ライツ管理」に関して。雑誌は書籍やコミックなどの出版物と比べても,非常に多数の権利者が関わっている。新聞の場合は社に所属する記者が主に執筆を行うのに対し,雑誌の場合は外部のスタッフとの共同作業になることが多く,どちらかというと映画やテレビなどの作り方に似ている。そのような中で,権利処理のための業界標準モデルをきちんと構築し,二次的利用を果たす際にはどのような形で著作権使用料配分を行っていくのかを考える必要がある。
 二番目の「ワークフローとデータの整備」に関して。現在,雑誌コンテンツのデジタル化,データベース化に取り組んでいるところは非常に少ない。そのため,雑誌記事のデジタルデータ化には,予想外の手間がかかる状況を招いている。また,「紙の雑誌を作った後でデジタルデータを作る」工程を敷いてしまっていては,デジタルメディアが持つ速報性などの特性を生かすことができない。複数のメディアにコンテンツをシームレスに出すためのワークフロー,配信のためのフォーマットづくりが重要となってくる。
 そして,三番目の課題は「ビジネスモデルの構築」である。紙の雑誌の出版を行うことで,出版社は読者からの販売収入と,企業などからの広告収入の両方を得ることができていた。デジタル化が進んだ際には,課金のプラットフォームをどう構築するのか,パソコンやケータイ,読書専用端末などのデバイスに対してどのようにコンテンツを配信していくのか,広告をどのように掲載し,どのような価値を広告主に対して提供するのか,といった課題に一つずつ取り組んでいく必要がある。
 2009年度の実証実験は,パソコンを中心にした配信実験にとどまっており,その機能も限定的なものであった。雑誌コンテンツのデータ整備等にも課題が数多く残されており,次年度以降も同コンソーシアムを中心に引き続き検討を重ねていく予定である。
 そして,今回の実験を受けて,さらなる課題としているのが「国際化への取り組み」である。第I期実証実験においては,海外在住の日本人に対して雑誌コンテンツの配信を行っているが,今後はコンテンツの多言語化を行うことによる国際展開を視野に入れている。
 さて,ここまで「雑誌」とひとくくりに書いてきたが,その扱うテーマ,ジャンルによって,個々の読者やビジネス構造は大きく違ってくる。コンソーシアムで「雑誌の未来」を結論づけることはできないと,筆者は強く感じている。だからこそ,多種多様の企業と,雑誌の未来を色々な立場から考え,試行錯誤していくことが必要なのだ。
 そしてこれは,いままで出版社が雑誌作りにおいて,さまざまなスタッフや著作者,書店,そして読者を巻き込みながら行っていたことと同じではないだろうか。メディア産業が激変していく中,このコンソーシアムをどう「編集」していくかが,われわれに課せられた今後の大きな課題となってくることであろう。

(株式会社扶桑社/日本雑誌協会デジタルコンテンツ推進委員会)