第16回 国際出版研究フォーラム 《第3セッション》 ITと出版産業の変化と発展

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《第3セッション》 ITと出版産業の変化と発展


電子出版がもたらす新たな文化創造
――電子学術書と出版産業の変化


湯浅俊彦
(立命館大学文学部教授)


1.立命館大学の「ゼミ授業」における電子学術書の活用事例
 出版産業における電子出版の進展は,これからの社会を大きく変えていく力がある。
 発表では,2013年4月から開始した立命館大学のテーマリサーチ型ゼミナールにおける「電子学術書共同利用実証実験」の事例から,電子学術書の課題を分析し,電子学術書を活用した学術情報基盤の充実と大学教育の質的向上に関する具体的方策を検討した。
 事例報告ではプラットフォームであるBookLooper(京セラ・コミュニケーション・システム)に電子学術書を搭載し,ゼミ授業の中で学生がiPadを操作し,活用した模様をスライドを使って説明した。

2.電子学術書実証実験のアンケート結果
 この実証実験に参加したゼミ学生を対象としたアンケートからは,従来の紙媒体にない電子学術書の次のような特性が授業で活用できることが明らかになった。
 ①全文検索,目次機能
 ②ラインマーカーやメモした箇所の呼び出し機能
 ③複数コンテンツの携帯と利用
 そして,電子学術書を用いた授業の改善点としては以下の点が挙げられた。
 ①操作に気を取られている間に授業が進む点
 ②閲覧したいページにすぐ移動できない点
 ③授業テーマに関する書籍が少ない点

3.電子書籍と読書アクセシビリティの確保
 一方,発表では,立命館大学における視覚障害や発達障害など「読書困難な学生」に対する読書アクセシビリティ保障の観点からの研究と実践活動を紹介した。
 すでに立命館大学では2010年1月からの改正著作権法の施行を受けて,視覚障害等を有する学生を対象としたテキストデータ提供を全国の大学図書館に先駆けて開始していた。
 具体的には2名の専任担当者を配置し,視覚障害等を有する学生が必要とする所蔵資料のテキストデータ化を行っている。
 手順としては,(1)図書資料をコピーしてからスキャニングし,(2)OCRソフトにかけ,(3)目視による誤変換修正という校正過程を経て,テキストデータ化し,(4)テキストデータ化された資料はCD-ROMに格納されて利用者に提供され,(5)利用者が返却したCD-ROMはカウンター内に別置され,障害のある学生からリクエストがあれば提供される,というものである。
 しかし,電子書籍に音声読み上げ機能が実装されれば,このような煩雑な作業は不要になる。2016年4月の「障害者差別解消法」に向けて,視覚障害等を有する学生の読書アクセシビリティを保障する観点から,日本語タイトルの電子書籍の拡充と音声読み上げ対応を実現させることが喫緊の課題である。

4.電子学術書がもたらす教育の変化と出版産業の新たな挑戦
 このような動きは,電子出版がただ単に紙の出版物を電子化しただけでなく,日本の大学教育を大きく変えていくこと示している。
 出版の長い歴史の中で,電子出版はまだ始まったばかりである。日本語タイトルの学術書の電子化は遅れているが,今後,電子化が進展することによって著作物がさらに積極的に利活用され,社会的変容につながっていくことは疑いえない。
 著作物は利用されてこそ価値が生じる。電子出版による出版産業の変化は次の知見を生み出していくための一つの過程であり,さらなる発展が期待されるのである。