第18回 国際出版研究フォーラム発表 「出版をめぐる著作権制度の動向と課題」 和泉澤 衞 (2018年11月)

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出版をめぐる著作権制度の動向と課題


和泉澤 衞
(東京経済大学)


1.はじめに

 本発表は,2つの点を取り上げている.①「e-Booksと著作権法」と,②「ネット時代における著作物の保護と利用」である.
 前者は,東アジア諸国の著作権法におけるe-Booksと出版社・発行社の位置付けについて近年の状況を概観するものであり,後者は,世界的にデジタル・アーカイブ化が進展しているが,著作権法制度の面から,特に,著作者・出版社と最終ユーザーとの間の経済的利害得失をどのような観点から調整していくべきなのかにつき,米国のGoogle Books訴訟事件などを紹介しつつ,出版界自身がこうした情報インフラの整備により積極的に参画していかないとますます世界の中で立ち遅れてしまうという警鐘を鳴らす趣旨のものである.


2.e-Booksをめぐる著作権法制の動向・現状(東アジア関係)

 日本におけるe-Booksへの対応の著作権法改正は,時間がかかって,結局,2014年であった.改正のポイントは,ⅰ)「出版権の設定」として,CD-ROM等の記録媒体を含めたり,インターネットでの電子的提供という出版類型を新たに導入する,また,ⅱ)「出版権の内容」において,文書・図画の本として複製する権利(1号出版権)と記録媒体で公衆送信を行う権利(2号出版権)という2つの区分を設けて,出版権者はその著作物に関して,その全部又は一部を専有する,というものである.実際,うまく改正後の出版権契約が普及・定着していくかが焦点であり,課題も残されている.
 韓国における著作権法の改正は,韓米の自由貿易協定(韓米FTA)の問題などがあって,いろいろ複雑な議論の経過の末,2011年に行われた.改正のポイントは,ⅰ)「出版発行権」の排他的権利の範囲を拡大して,全ての著作物の発行・複製・伝送に設定できるようにする,また,ⅱ)そこから除外する形で,従来の紙媒体の出版権の条文規定はそのまま存置する,というものである.いわば法律的には並立関係にあるので,その後の出版契約・標準契約書などの実務面で,円滑な運営が課題とされている.なお,この韓米FTAに関連して,著作権法の改正で著作物利用の一般規定であるフェアユースの条項が新設されている.
 その他の東アジア地区(中国・香港・台湾)をみると,法制面でのe-Booksへの対応については,遅れという問題は特に生じていない.なお,詳細は省略するが,権利保護の対象範囲については,香港は英国時代の歴史的背景もあり運用は米国型のフェアユースとなっており,また,台湾は,知的財産権法関連の整備には意欲的に取り組んできており著作権法も逐次の改正により米国型のフェアユース規定が導入され,電子書籍プラットホームの統合やデジタルアーカイブ化の積極的推進を図っている.


3.ネット時代に対応した出版メディアについて

(1)Google Books訴訟事件の概要
 米国のGoogle Books訴訟事件の概要は,「Googleは,2004年から図書館の協力を得て蔵書(書籍)をデジタル化して,インターネットでの検索・利用を可能とするGoogle Booksのシステム運用を開始した.著作権保護期間中のものはその一部だけが閲読可能なスニペット画面(snippet)にする」というものである.これに対して,米国作家協会らがGoogleに対して,連邦地裁に提訴(集団訴訟)を行って,争点は,このシステムがフェアユースの範囲内かどうかである.
 全体の流れとしては,地裁での2度にわたる当事者の和解案の交渉を経て,地裁判決,高裁判決,最終的には連邦最高裁で,Googleの勝訴が確定したというものである.
 2008年の第1次の和解案は,全世界の著作権者に対して,このシステムに加わるか離脱するかを突き付けるものだったので,大騒動になった.しかし,第2次の和解案(2009年11月)は,対象を米国などの英語圏・4か国の出版物に絞るという内容だったので,それ以外の国における心配・関心は急速に減退していったが,英語圏以外の国の著作権者や関係者において冷静に考えれば,こうしたシステムにどう対応するかは,いずれ判断を迫られるのである.
 Google Booksシステムに乗るにせよ,独自に自国語の言語著作物のデジタルアーカイブ化を図るにせよ,いずれにしても,それぞれの国で,情報インフラの整備は不可欠なのであって,嫌なことを先送りするだけでは問題は解決しないのである.

(2)フェアユースについて
  (一般的な適用除外条項)
 著作権者の権利が及ばない例外規定についてみると,フェアユースという一般的な例外規定を設ける米国などの国と,利用形態を限定列挙して個別に例外規定の条文を設ける日本などの国とに分かれている.
 Google Books訴訟事件で,米国連邦裁判所は,検索や閲覧の範囲やこのシステムによって享受できる社会的便益などを述べた上で,フェアユースの範囲内であり著作権法に違反しないと判示した.この判決当時の私の率直な印象としては,日本におけるデジタルアーカイブは,いったい誰がどのように進めていくのかという,不安感というか,いたたまれない焦燥感の圧迫を強く感じたものである.

(3)日本における例外規定の方式等をめぐる議論
 日本では,一般例外規定を設けるべきか,今の個別例外規定方式のままがよいかの議論は,延々と続いている.政府の著作権審議会では,現状維持の声が強いようだが,一方でフェアユース推進側は,デジタルアーカイブ化を例として,現状のままでは,あまりに硬直的で時代の変化のスピードに対応できないなどとしている.
 もちろん,フェアユース型の規定を設ければ全てが都合よく解決するわけでない.ただ,個人的には,そうした規定を持つ東アジアの諸国が先行し,日本は,また後れをとるのではないかと危惧している.


4.おわりに

 出版物をめぐるデジタル化の流れは,否応なく進んでいく.情報インフラの整備のためにも,出版メディア全体として,まず,各国の中でそうした整備に参画し,また,国際的にも参画と協議・調整を図っていかなければならない.読者・一般消費者の素朴な疑問・願いに耳を傾ける努力を積み重ねながら,著作権法専門家・デジタル化技術専門家のみならず広く関係者を巻き込んで,実践的に行動していくことが求められている.