変貌する出版プラットフォーム 堀 鉄彦(2015年1月29日)

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出版流通研究部会報告(2015年1月29日)

変貌する出版プラットフォーム

=デジタル化で多様化する現状再整理の試み=

堀 鉄彦(日本出版学会会員) 


 ネット化・デジタル化が進展する中で,出版産業とその周辺ではさまざまな新しいプラットフォームが生まれている。
 既存出版プラットフォームの現状を分析し、同時に新たなプラットフォームのビジネスモデルを整理する。
 新興プラットフォームの成立の力学を見ることにより、既存の出版プラットフォームのどこが変貌を迫られているかが分かるはずだ。
 海外の状況や、プラットフォーム化で先行する他業界の動きを合わせて分析することで、出版業界が今後どうすべきかについて、ヒントが見えてくる。 

 

1.出版不況の中で生まれている新たなプラットフォーム 

 出版市場の縮小傾向が止まらない。しかし、それは出版の“すべて”がだめになっているのではなく“既存の出版プラットフォーム”の機能が弱くなっている、もしくはデジタル化で変化するビジネスの構造に対応できていないだけではないだろうか。
 キーワードとなるのはプラットフォームの「アンバンドル(分離・解体)」と「バンドル(結合・集約)」である。デジタル化によって起こったのは、既存出版プラットフォームのコンテンツや機能の新興プラットフォームによる「アンバンドル」であり、一方で既存出版ビジネス以外の主体による「バンドル」である。デジタル化の進展と、同時に起こったプラットフォーマーによる新テクノロジーの導入で、その動きは、明らかに加速されている。 

2.既存の出版プラットフォームを支えていた力は物流と金融 

 既存の出版プラットフォームを支えてきたのは出版取次による強力な「物流機能」と「金融機能」である。世界でもまれなローコストで正確な物流サービスと、資本力の小さな出版社でもビジネスが可能で、コストをかけずに安心して書店が仕入れできる充実した金融サービスが提供されてきた。しかし、電子書籍の取次には「金融機能」がない。このため作家への初版印税などの原資がない。出版業界のステークホルダーをバンドルしてきた金融機能が電子書籍にないことが、「アンバンドル」促進のひとつの力となっている。Google和解問題以降「業界常識」が通用しない動きが進んだことの背景にも紙と電子の業界構造の違いが影響しているのではないか。 

3.プラットフォーマーとしてのAmazonの強味 

 Amazonのビジネスは、緻密な戦略と、高度な技術に支えられている。地球上にあるすべての商品を取り扱うことを目指した「Everything Store」の概念に基づきスタートしたECサービスは、当初から書籍以外の全ての商品を扱う形で組み立てられた。そして高度なレコメンドサービス、自動価格決定システムなどそれまでの企業が持っていなかったテクノロジーを利用し、成長を加速していった。書籍などコンテンツビジネスにおいては、GoogleやAppleとも比較にならない強力なポジションにある。 

4.国内のプラットフォーマーの動向 

 国内の出版流通にも、電子書籍の登場をきっかけとして様々なプラットフォーマーが登場した。総合プラットフォーマーとしては CCC、楽天、DeNAなど、それぞれITビジネスのノウハウを出版流通に持ち込むことで、事業拡大を図っている。
 デジタル化で、小規模なスタートアップ企業も相次ぎ参入している。「小説家になろう」「Story.jp」などからベストセラーが輩出されるようになり、作家育成サイトの一つ、アルファポリスは株式公開するまでに成長した。有料課金モデルを志向するピースオブケイクスは、書籍プロモーション・作家プロモーションの一つの起点ともなりつつある。ITサービスは創業コスト・運営コストが少なくて済む。これが電子分野に限って出版市場の参入障壁を低くしている。今後も様々な新プラットフォームが登場するだろう。 

5.出版社のプラットフォームビジネス 

 既存出版社がかかわる新プラットフォームで最大の成功例と言えるのはNTTドコモが事業主体となり、KADOKAWAが運営する「dマガジン」だ。100万人超の利用者を集め、すでに雑誌出版社のデジタル収入の中でかなり大きな比率を占める。KADOKAWA・DWANGOは、合併後IT企業のノウハウを生かした“プラットフォーム・オリエンテッド”な経営に移行すると宣言している。
 ユニークなのが、JTBパブリッシングが地域出版社との連携により始めた「たびのたね」。利用者が記事単位で組み合わせて「オリジナル雑誌」製作可能な電子雑誌サービスだ。医学書業界の主要出版社が共同で計画中なのが「医書.jp」。紙の書店まで巻き込んだ垂直統合のビジネスモデルでスタートする。
  海外の書籍出版社は、電子でも作家との共同プロモーションができるプラットフォームを重視する傾向にある。電子書籍直販サイトを起点とする戦略も多彩だ。直販サイトでの販売に関して印税率を優遇することで作家のインセンティブを高め、作家と共同でソーシャルメディアでの展開を行っている。雑誌出版社では、女性誌のMeredithが大規模な顧客データベースを基盤として活用したビジネス展開で収益を伸ばしている。 

6.出版業界の課題と今後の方向

 他業界のプラットフォームビジネスからも学べることは多い。特に参考となるのは、広告業界やソーシャルゲーム企業の展開だ。
 今後の出版業界の課題としては(1)プラットフォーマーにしか情報が入らない状態からどう脱却するか、特に「読み放題」サービスとどうつき合うか(2)「電子雑誌が電子書籍になってしまっている」問題(3)デジタル技術で紙のプラットフォームを強化することなどがあげられる。
 出版プラットフォームの変貌に合わせて、各出版社は出版契約を見直し、ステークホルダーを拡大、仕事もデジタル時代に合った形で「自動化」の推進を行っていく必要がある。

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 とかく「暗い分析」を散見する今日、出版界をダイナミックに分析し、独自の分析から、その「未来に道のある」ことを説く、ユニークな報告であった。

 堀さんのまとめの言葉「民のために…」をいう視点に参加者が和らぎ、その後の交流会でも活発な議論に終始した有意義な出版流通研究部会であった。会場:八木書店会議室 参加者:会員16名 一般15名 計31名。(文責:出版流通研究部会)