「出版産業と出版流通の展望と課題」樋口清一(2014年12月1日)

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「出版流通研究部会報告」 (2014年12月1日)

「出版産業と出版流通の展望と課題」

― 産業状況・再販問題・消費税・電子出版権創設と新しい出版契約  

樋口清一(日本書籍出版協会) 

 1996年以来の「出版不況」は今年も改善されることはなく、むしろ、出版物の売れ行きは低迷しているというのが出版関係者に共通した実感である。しかし、その実態および原因については、いまだ十分な検証が不足しているのではないか。出版業界の将来を考えるためには、たとえば、以下のような論点について、予断を持たずに検証していくことが必要である。

1.   本はどのように読まれているのか

現在、過去に比べて「本は読まれていない」のか「本は読まれている」のかについて、識者の論は分かれる。さらに、「今後さらに本は読まれなくなる」のかどうかについて、主観的な願望や、反対に諦観を背景にした様々な意見が聞かれるが、客観的な根拠に基づく推論がなされているわけではない。さらに、「本は読まれなくなる」ことが「今後、本はさらに売れなくなる」ことをもたらすかどうかについても意見は分かれる。これに関連して、かつて公共図書館の複本問題に単を発した論争があり、客観的な状況を調査した(「公立図書館貸出実態調査2003報告書」)が、この結果についても様々な評価があり、議論のための共通認識が形成されているとは言えない。

2.     「出版不況」と言われている状況の分析と真の原因は何か

出版物の販売額が減少の一途をたどっていることに関しては、様々な原因が指摘されている。たとえば、「携帯電話に金を使い本を買う余裕がない」、「受験勉強が忙しくて本を読んでいる暇がない」、「インターネットの普及で情報入手の手段が多様化」、「少子化が進行して本を一番読む世代が少なくなった」等々。しかし、日本と似たような社会構造と経済水準を持った欧州諸国の書籍販売額は、最近の10年間でも決して日本のようには減少していない。様々な要因と出版市場縮小との因果関係についてより精緻な検証が求められる。

また、電子書籍との合算で考えれば、少なくとも書籍については市場は回復期に入っているとの指摘もあるが、現場での実感は程遠い。新たなビジネスモデルの成果を含めた広義の出版市場の統計が求められている。

3.    電子書籍の価格決定権をだれが持つべきか

 再販制度(再販売価格維持契約)が、出版市場の安定と成長に大きな役割を果たしてきたことは確かである。しかし、流通システムと読者のニーズが多様化した中で、再販制度によって保護されるべき利益とは何かを改めて検証する必要があるのではないか。再販制度を採用している国(ドイツ、フランス、韓国等)では、価格拘束の範囲を拡大する動きが見られるが、一方で、かつて定価制度を採用していた英国では定価制度への回帰は見られず、むしろ自由価格制度の中での一定の秩序維持が機能している。

このような状況の中で電子書籍の価格決定権の問題が議論されている。ただし、これは「全国同一価格による公平性の維持」、「過度な競争を排除することでの出版物の多様性の維持」といった従来の再販制度の目的とは異なった観点からの議論であり、再販制度の是非という問題とは切り離して議論されるべきである。

4.   電子出版権を如何にして有効な制度としていくか

著作権法の改正により、20151月から出版権の範囲が電子書籍に拡大された。いうまでもなく、出版権は本来、著作権者との契約によってはじめて設定されるものであり、また、出版権設定によらない出版契約も可能であり、現に電子書籍はこれまでもライセンス契約によって出版されてきた。書協をはじめ各団体では電子書籍への出版権設定のための契約書ヒナ型が発表されており、電子書籍への出版権設定は促進されると考えられるが、登録制度はほとんど改正されていないため、電子書籍に出版権設定がなされたとしても登録が増加するとは考えにくい。それを補完するために、日本出版インフラセンターによる出版常用登録センターも始動する。

 著作権法改正の過程では、欧米のような「著作権譲渡契約」は日本には合わないとされたが、欧米の出版契約は必ずしも厳密な意味での「譲渡契約」とはいえない面もあり、むしろ、日本の出版権設定契約との類似点もある。欧米型の契約慣行についても日本に取り入れられる部分があるかどうかの研究が必要である。

5.     消費税の軽減税率実現のコストパフォーマンスをどう考えるか

 消費税率の10%への引き上げは20174月まで延期されることとなり、その時点では何らかの軽減税率が導入される見込みである。ただし、出版物への軽減税率の実現にあたっては、自主的な判断による対象範囲の線引きが認められるかどうかという問題に加え、複数税率へのレジ対応、図書コード/商品コード上での識別、非課税となっている教科書等との関係等、解決すべき課題も多い。軽減税率導入がかえって出版業界のコスト増をもたらさないよう、コストパフォーマンスの高い解決策を模索すべきである。

(会場:日本大学法学部。参加人数:会員15名、一般6名の計21名)
    (文責:出版流通研究部会)