表現の自由と歴史解釈 田上雄大 (2017年5月11日:第2部)

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■出版法制研究部会 開催要旨(2017年5月11日:第2部)


表現の自由と歴史解釈


田上雄大(会員、日本大学法学部助教)


 表現の自由は、あらゆる人権の中で最も重要な権利と位置付けられている。それは、表現の自由は民主主義を維持・発展させていくために非常に重要な役割を果たすからである。言論や出版を公権力が制約することで、我々国民に正しい情報が入手できなくなり、多様な情報によって様々な議論や意見が国民に伝わらなくなってしまう。そして、これが最終的に国民の投票行動に影響を及ぼすことになる。
 さらに表現の自由は壊れやすく、傷つきやすい権利といわれ、その制約には慎重さが強く求められている。とはいえ、多くの国々において、表現の自由に相当する人権は、憲法によって保障されているが、その保障は絶対的なものではなく、憲法によって留保がつけられ、制約を受けることも少なくない。わが国では、「公共の福祉」により制約される。例えば、名誉棄損に当たる表現や性表現に対する制約がこれである。ただし、前述のようにその制約には慎重さが求められ、大日本帝国憲法下で行われたいわゆる「法律の留保」のように、単に法律によって人権を制約することはできない。表現の自由を制約する場合は、厳格な基準のもと裁判所によって審査されることになっている。
 本報告では、歴史をどのように解釈するかという言論・出版に対する制約について検討がなされた。わが国においては原則として、歴史解釈についてどのような解釈をとったとしても法律によって制約が正当化されることはない。しかし、諸外国では、歴史解釈に対する言論・出版に対する制約が正当化されることがある。例えば、ドイツにおけるホロコースト否認という表現がこれである。またこれだけではなく、ウクライナ憲法における歴史解釈に関する言論・出版の制約についても焦点を当てている。ウクライナの場合、旧ソ連のもとでの共産主義体制で行われた数多くの弾圧や地名や社名に旧ソ連と関係のある文言の使用を禁止され、改名を要求したり、国旗を含めた旗の使用や関係のある歌の歌唱にまで及ぶもので、かなり広範囲の規制が行われているとする発表がなされた。このようなウクライナの言論・出版に対する制約は、わが国では考えられないものである。しかし、当然ウクライナにおいても重要な人権である表現の自由は、その重要性を認識しつつ、その国特有の歴史を踏まえて規制がなされているとする現状を報告してもらった。
 憲法学界では、あまり注目されてこなかったウクライナ憲法を焦点に当て、歴史認識・解釈といった意見に対する制約も独自のものであるというところに、本報告の特徴があるといえる。

場 所: 日本大学危機管理学部 本館1203教室
参加者: 17名(会員9名、非会員8名)

司会・文責:杉山幸一(日本大学危機管理学部准教授)