生徒の自殺と報道の倫理  佐藤康史 (2006年12月1日)

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出版法制研究部会   発表要旨 (2006年12月1日)

生徒の自殺と報道の倫理――教育現場の視点から

報告者:佐藤康史氏(科学技術学園高等学校講師)
 学校現場における報道は北海道及び福岡県内の学校の自殺問題に端を発し,様々な報道がなされている。今回は民事訴訟係争中の学校法人において,法的及び倫理的には問題のない報道であっても,当該報道がなされた結果として学校運営に支障をきたしている状況について当該教育現場サイドの側から報告をし,その問題について会員から議論を頂いた。
 事例は,学校で起きた生徒の転落死事件であった。この転落死事故を,学校側は,何らかの原因による発作的な自殺と認識し,転落死した生徒の両親は,学校に過失のある事故と認識していた。
 事故当時は,特に世間から注目されることはなかった。また学校側も,責任を感じて精神的なダメージを受けた教師や,動揺する生徒はいたものの,学校内としては大きな問題になることなく,事態は収拾された。
 しかし,転落死した生徒の両親との間の話し合いは,うまく決着がつかず,2年後に法廷へと持ち込まれた。それをきっかけとして突然行われた報道は,両親の側の認識に立った報道であった。これは,2年前の状況を知らない,事件後に入学した生徒達に多大な影響を与えた。うつ状態になってしまった生徒や,登校拒否状態になる生徒が出てしまったのである。
 以上のような事例をふまえて,部会出席者の間で,活発な討論が行われた。
 まず「教育現場で報道される状況が発生した場合に学校側が最初に生徒及び保護者に説明をするべきであり,決して,マス・メディアから最初に事件を知るというようなことになってはいけない」という意見が出された。しかし,この事件の場合,発生から数年後の報道という問題があるため,その点を含めて様々な意見が交わされた。特に問題とされたのは報道される学校に当時所属している生徒に対する影響とその後入学してきた生徒に対する影響についてであった。また「訴訟が提起されている事案に際して学校側としては『報道されるかもしれない』という意識をもち,事態に対応すべきではないのか」という学校側の危機管理やそれに伴う広報態勢に関する意見や,訴訟になっている以上学校側の言い分も報道すべきであった等の意見があった。