個人情報保護法に残された問題  笹田佳宏 (2003年7月11日)

 法制・出版の自由部会   発表要旨 (2003年7月11日)

個人情報保護法に残された問題――国会審議からの検証

 2003年5月23日,「個人情報に関する法律」を含む5法案が参議院本会議で,与党3党などの賛成多数で可決,成立した。この個人情報保護法をめぐる国会審議を『月刊民放』で担当した,日本民間放送連盟の笹田佳宏氏に,その過程と問題点をご報告いただき,意見の交換を行った。
 個人情報保護法の審議は2001年の通常国会から始まった。2002年秋の臨時国会まで5国会にわたり継続的に審議されたが,「表現の自由」「報道の自由」を侵しかねないとして民放連などのマスコミ団体をはじめ,フリージャーナリストや作家ら表現活動に携わる各界の人々が批判を続けたことから,2002年末廃案となった。
 廃案を受けて政府は2003年3月7日,修正法案を国会に提出した。修正法案はメディア規制につながるとされた基本原則を削除したうえで,(1)個人ジャーナリストが義務規定の適用除外となることの明確化,(2)著述活動を義務規定の適用除外とする,(3)報道機関等への情報提供者に対し主務大臣は権限を行使してはならない等が新たに盛り込まれた。
 メディア側の主張がある程度受け入れられたが,一方で「報道」の定義が盛り込まれるなど新たな火種も生まれた。
 具体的には,個人情報保護法50条1項で「個人情報取扱事業者のうち次の各号に掲げる者については,その個人情報を取り扱う目的の全部又は一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは,前章(4章 個人情報取扱事業者の義務)の規定は,適用しない。 一 放送機関,新聞社,通信社その他報道機関(報道を業として行う個人を含む。)報道の用に供する目的 二 著述を業として行う者 著述の用に供する目的」と規定し,2項で「前項第1号に規定する『報道』とは,不特定かつ多数の者に対して客観的事実として知らせること(これに基づいて意見又は見解を述べることを含む)をいう」としている。
 報道を定義するということは,その定義に当てはまらないものは,規制の対象となる,ということである。立法の趣旨がどのようなものであろうとも,司法の場でこの定義がどのように解釈されるかは,不明であり,何よりもこの定義に当てはまる「報道」が,規制に対象外となったのであって,報道機関あるいは報道メディアが規制から除外されたわけではない。さらに国会の審議では政府の答弁で「雑誌によるスキャンダル報道等についても,本法案にいう報道に含まれるものと解釈している」としているが,実際には報道機関の中に出版社は明示されていない。出版社が含まれていない理由として,政府は,「文学娯楽等の幅広い分野をカバーしているので法律の明文規定に含めるのは適当ではないから」としている。これは,出版者の側が報道のつもりでも,そうとは判断されない場合があることを意味する。
 他にも多くの問題点が指摘され活発な討論が行われた(出席者10名)。
(塚本晴二朗)