編集者として58年間考えてきたこと
―― なぜ、いま『日本ナショナリズムの歴史』なのか
梅田正己(うめだ・まさき)
(前・高文研代表、ジャーナリスト、歴史研究者)
梅田氏の講演レジュメ、「出版人として歩いた58年」から表出するキーワードは、高校生文化・自立・対話・文化祭・沖縄・基地・修学旅行・国家秘密法・横浜事件・読み聞かせ・日本国憲法・有事法制・・・と多彩である。氏の1959年三省堂入社から、72年の高校生文化研究会(84年、高文研に改称)設立における経緯、そして大著『日本ナショナリズムの歴史』(高文研・全4巻)刊行にいたる流れは、まさに編集本・刊行物から見る自分史でもあり、参加者には編集意図を感じ取り、その書籍が誕生した時代背景もあわせて考える歴史資料ともなっている。
三省堂での月刊誌「学生通信」の方針を引き継ぐ、高校生文化研究会「考える高校生」の発行、購読者の拡がりは、まさに問題意識を共有した現場の教員、高校生の後押しがあったのだろう。文化祭・学園祭企画本、大きな反響を生んだTBSドラマ「3年B組金八先生」との縁、全国の小中高に広がった「朝の読書」「読み聞かせ本」等のお話も貴重である。沖縄大学と共催の沖縄セミナーを通して「沖縄戦の戦跡と基地の現状を一体としてとらえる、今日一般的に見られるフィールドワークの原型」が作られ、70点を超える沖縄関連書籍を生み出されたことは驚きであった。また、氏が「国家秘密法に反対する出版人の会」の事務局を受け持ったことから、「横浜事件再審裁判」に関する貴重なお話も聞くことができた。
ご講演後の、日本ナショナリズムの源流、翻訳書企画、憲法本企画の動向、わかりやすい文章を書くコツ、といった質問にも丁寧にご対応いただいた。また、編集者・著者としての長いご経験から、「梅田氏が本当に言いたいことは?」という質問に対しては、「国民大衆の意識が大事。一票を投じる時、政治レベルを決めることになる」「大衆意識を決めるのは歴史認識であり、筋道をきちんと国民がとらえることが重要」と答えた。それらの国民意識をどう高めていくかについては、「日本の近現代を学び、市民運動を興すことが大事」と警鐘を鳴らす。ここに伴走する、出版の使命を改めて感じた。
執筆してくれる・解説してくれる人がいない場合、最終的にご自身が執筆者を引き受けたという。一般の人が読んでわかりやすい文章、読者目線にあふれている文章は、編集者として、表現者として、ことばの力を信じ、出版の力を信じている梅田氏のご経験から醸し出されるものであり、伝えようとする熱いメッセージが込められている。
参加者:20名(報告者+会員11名、一般8名)
会場:日本大学法学部三崎町キャンパス 10号館7階1072講堂
(文責:飛鳥勝幸)