独立系出版社の編集デザイン 上田宙・小林えみ・宮後優子 (2019年5月28日開催)

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■ 日本出版学会 出版編集研究部会 開催要旨(2019年5月28日開催)


独立系出版社の編集デザイン


上田宙 (うえだ・ひろし) (会員、烏有書林)
小林えみ (こばやし・えみ) (会員、堀之内出版)
宮後優子 (みやご・ゆうこ) (Book&Design)


 昨今、時代背景ととりまく環境が大きく変わり、新しいタイプの「独立系出版社」が生まれてきている。今回、「数字」・「DTP」・「造本」の3つのキーワードで分析を試みた。これらのキーワードは、書籍編集の流れを俯瞰するものであり、かつ、「独立系出版社」として今日的な製作・流通も含めた課題も多く含んでいる。日々現場と対峙している3者による臨場感あふれる発表であった。
 まず、小林えみ会員は「原価計算をして凝ったデザインを実現する」として、実際編集してきた人文書を中心に、カバーが単色・2色であっても、いかに効果的なデザインを提案できるか説明。やり方によっては費用増にならない箔押しのデザインや、文字を入れないカバーデザインの例も披露した。実用書とは違い専門性の高い人文書の場合は見栄えも大事であり、SNS等を使って読者・読者予備軍に対し、どう接触ポイントを拡げるかが重要と指摘する。「売り上げが少なくともよい」「少部数でもよい」という幻想ではなく、「リスクを小さく」という観点は重要である。
 上田宙会員はDTPのメリット・デメリットを分かりやすく説明。編集者がDTPに関わることは、内製化による経費節減が大きな要因ともなっているが、編集者のスキルがなければ不体裁な本になってしまう。句読点の前後のアキ、ルビ文字数の違いによる文字間の不統一、和文・欧文混合パターンでの不体裁等、具体例を元にこれらの原因を説明した。編集者自身の「理想の組版」が見えてなければ「道具」も生かせず、やはり一番大事なことは「それ(不体裁)に負けない文章」だと締めくくる。
 最後に登壇した宮後優子氏は刊行した手製本の絵本『うさぎがきいたおと』を、製作過程の画像とともに紹介した。美しい画像を味わいながら画家・印刷所との信頼関係、そして美篶堂(長野県伊那市)の手製本職人の息づかいを肌で感じる説明となった。会場での絵本回覧ではため息が漏れる。紙・文字・デザインのバランスとあわせ、少部数手製本がマスにはない、読者に浸透する力を持っていることを感じた。
 その後の3者間での意見調整、補説をふまえ、会場からの質問となった。参加者の興味関心も高く、多くの質問が出た。出版社を始めた理由、「商業出版」との違い、「大部数出版」の問題点、流通方法や書店対応、在庫管理、経営に関することまで拡がった。出版業が著者と読者をどう結びつけるか、独立を志向する人に対して、また次に繋ぐ後輩たちへの熱いメッセージにもあふれ、期待と夢を持つ場となった。
 現在、大手と言われている出版社も創業時はいわば「独立系出版社」であり「ひとり出版社」である。決して珍しいことではなく、今後は継続性の検証も必要となるだろう。個性ある「編集デザイン」はどう時代を読み、どういった企画を立て、できあがった書籍をどう届けるか。実経験から発せられる3者の発言に、会場でうなずく人も多かったことを記しておく。

参加者:67名(報告者+会員16名、一般51名)
会場:日本大学法学部三崎町キャンパス 10号館5階1051教室

(文責:飛鳥勝幸)