日米女性ファッション誌比較研究 富川淳子 (2018年6月28日開催)

■ 出版編集研究部会/出版教育研究部会 共催 開催趣旨 (2018年6月28日開催)

日米女性ファッション誌比較研究
――アメリカのファッション誌はなぜ、政治関連記事を掲載するのか

富川 淳子 (とみかわ あつこ)
(跡見学園女子大学文学部現代文化表現学科)

 本発表は勤務校の海外留学助成を受け、2017年4月から2018年3月まで1年間ニューヨークのファッション工科大学FIT(Fashion Institute of Technology)にVisiting Scholarとして留学、そこでの調査報告である。

 日本のファッション誌が政治ニュースの紹介や政治家を登場させることは稀である。一方アメリカのファッション誌は政治家が政治姿勢を語り、セレブリティも政治的な意見を述べる。この違いが生まれる要因の考察を目的とし、まずは調査を開始した。実際、『Harpers’ BAZAAR』(1867年創刊/ハーストマガジンズ社/以下『BAZAAR』)と『VOGUE』(1882年創刊/コンデナスト社)を対象に創刊から2017年12月までの期間、「political」というワードで検索すると『BAZAAR』は4026本、『VOGUE』は4308本の記事が見つかる。トランプ政権がスタートした2017年1月から2017年12月までの1年間では『BAZAAR』が2本、『VOGUE』は10本。オバマ政権1年目となる2009年の『BAZAAR』は2本、『VOGUE』には10本の記事が掲載されていた。

 さらに記事内容を調べてみると2誌には以下の共通項目があった。1)リベラルな政治家や夫人の政治姿勢や私生活。2)女性の権利獲得や社会問題に関する活動家たちの活動内容。3)リベラル派の政治キャスターや政治家秘書など政治にかかわる仕事をしている女性たちの仕事観。4)デザイナーや女優などセレブリティの政治的発言。ちなみに2誌ともトランプ大統領とメラニア夫人の登場は未だない。

 以上の調査データをもとに最新のファッション情報提供をコンセプトとするアメリカのファッション誌が政治関連記事を掲載する要因について編集者やジャーナリスト、大学教授などメディアの専門家7人にインタビューを行った。その結果、①ファッション誌のコンセプトには女性の生活を向上させる情報提供が含まれる。従って政治関連記事はファッション誌のコンセプトと合う。②読者層は政治への高い関心をもっている。③大統領が変わると生活が変わる政治システムによって政治への関心が一段と高まる。④自分たちを守る法律は自分たちで作るという意識が高い。⑤雑誌の広告主は政治関連記事掲載を許容している。⑥ニューヨークの基幹産業はファッションである。ファッション界を発展させるためにファッション誌も政治家と組んで積極的に協力する。⑦デザイナーやファッション業界は政治と密接に関わり、政治はファッションの構成要素のひとつになっている。⑧ファッション界にも強い影響力を持つ『VOGUE』編集長のアナ・ウインターは特別な存在であり、誌面でもクリントン支持を打ち出すほど政治への関与が高い。読者も他のメディアも彼女の姿勢を受け入れている。

 アメリカの女性ファッション誌が政治関連記事を扱う。その要因調査を通じて「指摘されてみればなるほど」という気づきと「日本とは違う」という驚きがあった。参加者の方たちが私と同じように何か新しい気づきを得る機会となったら幸いである。

 雑誌調査はFITが所有するデータベースを活用した。

参加者:30名(報告者+会員10名、一般19名)
会場:日本大学法学部三崎町キャンパス本館4階145教室

(文責:富川淳子)