書店からみた出版産業の40年 その現実と展望 牛口順二 (2019年2月26日開催)

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■ 出版産業研究部会 開催要旨 (2019年2月26日開催)


書店からみた出版産業の40年 その現実と展望


牛口順二 (会員、紀伊國屋書店)


 今日は書店から見た出版産業という軸で話をしていくが、自分は一般的に書店員としてイメージされる書店店頭での勤務経験はない。外商部門が主であり、その視点が中心になることを予めお断りしておく。


1.書店から見た出版産業40年

 自分が営業担当・営業所長として働いた1980年代は、出版産業でいくつかの変化が起きている。再販制度見直しの議論が行われていた時代であり、同時に雑誌の売上が書籍の売上を恒常的に上回るようになった時代でもあった。
 1990年代には営業所から本社の営業部門へ移り、営業システム課長から営業企画課長、同部長として営業システム化を担当していった。社内のシステム改善もそうだが、営業システムをベースとして図書館に使ってもらうシステムの開発も行っていた。
 この時代、QRS(クイックレスポンスシステム)によって洋書物流が改善した。エアカーゴ便の利用といった物流面、EDI(電子データ交換)やオンラインFAXの活用など情報面の改善がなされ、海外から平均21日程で到着するようになった。和書流通に関しても、基盤となるシステムの整備を行うことができた。自前で商品を迅速に調達するために店舗からの在庫引当システムなどが開始され、Publineも1995年に稼働した。
 1996年をピークに、出版業界は売上減を続ける時代に突入するが、当時は深刻に受け止められていなかった。その裏側では日米貿易摩擦からの規制緩和による、大店舗法緩和と再販制度の見直しも議論となっていた。再販制度見直しについては出版業界挙げての反対運動に発展し、その後はご存知のとおりである。一方で大店舗法緩和を受けた出店競争が起こり、過剰出店につながりその後の閉店の急増を招くこととなった。
 この時期から書店経営の悪化が顕著になり、紀伊國屋書店も2000年に初の赤字決算におちいっている。そんな中、私は当時の吉岡社長から指示を受け本格的な出版業界の構造研究をはじめた。2005年に中間報告を行っているが、このときにまとめた問題は今日につながることばかりである。
 2010年以降は電子書籍事業の立ち上げに関わっている。紙と電子の複合化は不可避な環境の中で、相互の連携、知見の共有化で可能性を探るということになる。2019年現在もまだこの取組は途上である。


2.書店から見た出版産業の現状と課題

 今回は書店から見たビジネスに限定して議論する。書店が生き残るための経営的側面から議論していきたい。最大の問題は、店頭で本を売ること、つまり本業で書店経営を維持することが困難になっていることである。前述の中間報告にも「自立した仕入体制」を盛り込み、その方針を推し進めてきたが、これは紀伊國屋書店のような大手書店は先陣を切る義務があると考えるからである。しかし、多くの書店は単独では自立した仕入れを進めるのが難しい現実もある。実際には取次や出版社を巻き込んだ改革が必須ではないか。
 マーケットイン型の流通が作れなかった最大の理由は、雑誌流通への相乗りが便利だったためであろう。書店も仕入能力の高い人材を育成してこなかった。まずは書店が仕入れの自立と多様化を進めることで、最初の切り口とすべきである。ただし、現状では判断材料にできる商品情報が十分に提供されていない。解決には出版社の取り組みが不可欠であり、また価格や利益配分構造の見直しにも出版社の対応が必要になる。読者のために価格を抑えることも必要だが、電子化やPODの活用による製造プロセスの見直しやロングテール販売に対応する基盤も整いつつある。
 最終的には、業界三者が協力して改革を行っていかなくてはならない。個別の創意を活かしながらも、書籍販売を主体とした構造改革を行う機は熟しつつあるのではないかと考えている。
(文責:牛口順二)

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 牛口会員による報告は、40年間の経験に裏打ちされながらも、自身の経験も客観的に分析した非常に聴きごたえのあるものであった。個々の努力に対して一定の評価はしながらも、必要なのは全体としての構造改革であり、そのために何から始めるべきかという議論の組み立ては堅実なものであり、なにより「本業としての出版物販売で商売が成り立たない状況」を打破しようという意志を感じられた。
 質疑応答では、紀伊國屋書店の自主仕入方針に対するより広い視点からの意見や、個別に出版社の規模や状況を踏まえての問題について意見が交換され活気にあふれる会となった。

日時: 2019年2月26日(火) 午後6時30分~8時30分
場所: 専修大学神田キャンパス 7号館
参加者: 50名(会員15名、学生9名、一般26名)