『取次の再編 これからの出版流通はどうなる』 星野 渉

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日本出版学会 出版経営研究部会・出版流通研究部会共催 (2015年11月12日開催)

 

取次の再編 これからの出版流通はどうなる

産業状況・再販問題・消費税・取次の再編・世界の出版流通


星野 渉(文化通信編集長)

 

大阪屋の債務超過報道、そして栗田出版販売の民事再生法申請報道などが相次ぎ、出版業界に激震が走り、大きな転換点を迎えているといえます。私たちは、「いま、何を考え、どのような方策を講じればよいのか」を考えたいと思います。そこで、激変する出版産業・出版流通の状況を「産業状況・再販問題・消費税・取次の再編・世界の出版流通」などに焦点を当て“2016年への展望と課題”を文化通信編集長 星野渉さん(会員)にご報告をお願いしました。

この記録は、星野会員の報告レジメをそのまま活用しています。(出版経営研究部会)

 ◇ 出版流通の危機

大阪屋と栗田出版販売 経営危機の構造
いずれも売り上げ減少と不良債権(の顕在化)。
雑誌市場の縮小と帳合変更。
経営のミスなのか?
出版取次であり続けた…

書籍と雑誌の市場規模推移

取次の第三極は必要なのか
大手出版社は第三極を維持しようとしている。
日本出版販売、トーハンの2社体制にするのか。
委託配本制度(取次システム)を維持するのか。
従来型書店網を維持(?)するのか。


第三極は成立するのか
収益モデルを変え得るのか。
出版物を離れ得るのか。
革新的なサービスを提示し得るのか。

◇大阪屋・栗田問題で顕在化したこと


大正期以来の「出版取次」モデルの破綻。
取次システムの永続を前提にした「委託配本制度」。

◇取次なき欧米モデルにみる今後の出版業界
日本に独立系の中小書店と、独立系の小規模出版社が多かったのは、取次システムのおかげだった。
物流、営業コストが上昇するため出版社の集中度が上がる=出版社のグループ化。
商品調達力を確保するため書店の集中度が上がる=巨大チェーン化、スーパーなど他チャンネルの拡大。
中小事業者は、グループに入るか、協業化するか…

◇実際に高まる集中度


書籍・雑誌販売額 1兆6065億円のうち、DNP(丸善CHI+文教堂)2000億円=シェア約12%、

DNP+紀伊國屋書店3000億円=シェア19%弱
TSUTAYA 1157 億円=シェア7%強
Amazon ?
トーハン、日販、大田丸、Net21…
広がる昭和図書への物流委託。
ハースト婦人画報社が講談社に販売業務委託。
カルチュア・コンビニエンス・クラブのC・パブリッシング サービス。
KADOKAWAグループの拡大と所沢流通センター開設へ。


◇ドイツは参考になるのか

文化通信社・日本出版インフラセンター共催ドイツ調査から

書籍で維持するドイツの流通・販売網
書籍と雑誌は別の流通・小売。
原則として買取取引(返品はあるが数%、次回仕入に充当)。
新刊は事前注文制(配本はない)。
取次(注文出荷のみ)のシェアは書籍流通の4割程度。
書籍価格拘束法(ポイントも許されない、電子書籍も対象)。
書籍の価格は日本の約2倍。
書店マージンは30~40%程度(取次マージンは15%程度)。
書店の在庫量は少ない。


◇ ドイツの小規模書店はなぜ元気?


「小さい書店はポジティブ、小規模書店は成長している」(ストーリーズ!:アネローゼ・ボイリッヒ社長)。
「2011年に創業し、売り上げは伸び続けている」(モーリッツプラッツ書店:ベン・フォン・リムシャー社長)

モーリッツプラッツ書店 ベン・フォン・リムシャー社長
2008年にハンブルクで創業、2011年に2店舗目出店。
正社員4人、見習い2人。
営業時間:9~19時、休日:日曜祝日。
常連客が7割、カフェカウンターと会員カード。
平均客単価22ユーロ=3080円(140円換算)。
在庫は約7000タイトル、常連が多いので入れ替える(返品)。
「ウェブショップがあるからアマゾンは怖くない」。
ウェブショップは売り上げの4%、リブリの「ホワイトラベル」を利用。
2011年ベルリンで設立。
社員は書籍3人、フィルム1人。
営業時間:10~20時、土曜10~18時。
書籍の85%をリブリ(取次)に発注している。
eBuch(eBook)の「Anabel」に加盟。
「2013年にAnabelに加盟して、2014年は利益が増えた」。

◇大手取次リブリの「ホワイトラベルサービス」

取引書店にオンラインショップ(EC)のインフラを提供。
ブランドは各書店、商品マスタ、顧客管理、決済、発送などをリブリが代行。
受注書籍はリブリの流通センター(バートヘルスフェルド)から送料無料で利用者宅に宅配。
価格拘束法があるため、配送速度・コストが同等ならアマゾンに対抗できる。
もともと、リブリは受注した商品を、全国の書店に翌朝届けてきた。

遠隔書店は14時まで、近隣書店は16時までに発注すれば翌日配送率97%。
注文品の送料は書店負担。速度に応じて段階制、EXPRESS=1㎏=1ユーロ程度。


◇ Anabel 取次を利用した共同発注システム

「eBuch」は2000年に情報交換を目的に設立した協同組合。

当初は15書店、現在は730書店。
「Anabel(Automatische Nachfuhr- und Bestelllogistik=自動補充と仕入れ流通)」、

取次を使って加盟書店からの注文を一括して出版社に発注。 2004年にスタート。
出版社への直接注文(主に新刊)が多いドイツ
大量に発注できる大手書店と、小ロット発注になる小規模書店でマージなどに差がある。
出版社が最低発注金額を設定しているケースが多い。
Anabelを利用すると
大手書店と同等の条件で仕入れることができる。
最低発注金額がないため最低限の数を注文できる。
配送・請求が集約される。
リブリは大手書店にも中央倉庫サービスを提供してきた。


◇ tolinoアライアンス

電子書籍でアマゾンに対抗

ドイツから聞こえてきたtolino
Kindleを超えた書店協業による電子書籍事業!?

tolinoアライアンスの流れと現状
ドイツの大手書店4社(タリア、フーゲンドゥーベル、ウィルトビルト、クラブ・ベルテルスマン)とドイツテレコムの共同

電子書籍プラットフォームを立ち上げた。
2013年3月にサービスを開始し、2014年代3四半期にKindleをシェアで上回る!
2014年10月にリブリが「ホワイトラベル」で中小書店にも提供。
6カ国、1500書店が導入、会員数350万人、端末販売150万台、月間トランザクション150万。


◇tolinoアライアンスのビジネスモデル


電子書籍端末、アプリの開発、コンテンツ配信などはドイツテレコムが担当。
販売促進、顧客管理などはメンバー書店およびリブリ(ホワイトラベル)が担当。
電子書籍端末は書店でのみ販売している。

フーゲンドゥーベル シュティーゲリッツ店
リブリが「ホワイトラベル」でサービス
tolinoアライアンスの利益配分
電子書籍の利益配分は、出版社70%、書店30%、ドイツテレコムへの手数料は書店が負担。
「ホワイトラベル」では電子書籍の書店粗利は10%。
端末の開発費はドイツテレコムが負担するが、書店が買取数を保証することで負担。
端末の書店粗利は5%程度だが、価格拘束の対象ではないので利益ゼロで販売している。
それでも前向きにとらえている書店が多い。

電子書籍では儲からないが、お客さんを維持するためにどうしても必要。

昔からのお客様がAmazonで買ってしまうのが一番恐ろしい。一度Amazonに行ったら戻ってこない。
(クルトハイマンブックセンター 社長 クリスチャン・ハイマン氏)

競争しなければならないのは他の書店ではなくてアマゾン。

すべてのメンバーが自分のやりたいことをやるのではなくて、共通の目標に向かうことが重要。
(フーゲンドゥーベル 社長 ニナ・フーゲンドゥーベル氏)

日本の電子書籍は価格拘束の対象外だから、tolino的なことをやらないという理由にはならない。

「死ぬのが怖いから自殺する」というような考え。
(ドイツテレコム デジタルコンテンツ部長 クラウス・レンクル氏)

各社が既存のモデルを捨てた
タリアの電子書籍ビジネス(2011年)

◇ なぜ、tolinoは「成功」しているのか?

ブランドの強化。ブランド認知率80%。
それまでの各社サービス(ブランド)をやめて統合した。
参加した各大手書店が、「トリノ」のマーケティングに投資した。
中小書店も参加できるモデルを作った(リブリの参加)。
出版社、取次、書店とも電子書籍の準備をしていた。
危機感を共有している→「55のテーゼ」。

◇ 55のテーゼと未来会議

業界団体の図書流通連盟が2011年6月に発表した2025年の出版業界予測。
書籍業界、出版社、取次、書店、業界団体、ロビー活動、ブックフェア、メディアキャンパス(旧書籍業学校=本の学校) 、

書籍データベースなどについて55項目。
第1項目「1.すべての印刷物がメディアとしての意味を失う。

書籍、雑誌、新聞はそれぞれ売り上げが25%減少する」から始まる極めて悲観的(冷徹)な予想。

当時のドイツでは書籍市場が成長していたにも関わらず。
底辺に流れるのは、書籍が電子化されていくという見通し。
2011年9月に訪問した「メディアキャンパス」で、ドイツ中から出版業界人150人が集まる「未来会議」に遭遇。
2015年に訪問した書店、取次等の関係者は、見事なまでに危機感を共有していた。


◇ デジタル時代の取次の役割

ドイツの「tolino」も「Anabel」も、取次(リブリ)が介在することで、小規模書店が大手チェーンやアマゾンに対抗できるようにする仕組み。

ドイツでは「取次」が集約機能を発揮して、デジタル時代のインフラになろうとしている。
ドイツと日本の書籍収益モデルの違いをどう克服するのか(しなければ書店は成立しない)。
集中化への対応とデジタルへの対応。

◇ 出版社のチャネル政策

キャンパス社(ドイツ) 社員数36人、年間売上高約14億円。
オンライン書店のシェアが28%、アマゾンの返品率は2%。
アマゾンの影響で小さな書店が潰れる。

出版社からみて小さな書店は大事な存在なのでアマゾンみたいな大きな会社が力を持っているのは好ましくない。
小さな書店にはプロモーションの助言をしているし、割引率も小さな書店にはできるだけメリットがあるように優遇している。

アマゾンの割引率は優遇していない。
ランダムハウス(アメリカ) 世界最大の書籍出版社
インデペンデント(独立系)書店担当部長にインタビュー(2014年)。
アマゾンやバーンズ&ノーブルは、自らベストセラーを作らない。
独立系書店は店主やスタッフが気に入った本なら新人作家の第1作でもフューチャーする。

売れ始めるとアマゾンや大手書店が仕入れ始める。
独立系書店に最も大きなプロモーションコストをかけている。
流通取引制度を整備するのはメーカーの役割。

◇ 書店はどうなるのか

書店の需要はなくなっていない。
新しく書店を始める若者たち。
薄利多売モデルから高付加価値サービスへ。
高品質、高価格の縮小均衡を目指す。
買切取引・高マージン。
魅力的な空間としての書店。


 

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