電子書籍アクセシビリティ――その普及の課題と展望 松原聡(2017年6月19日)

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■第1回 出版アクセシビリティ研究部会 開催要旨(2017年6月19日)


電子書籍アクセシビリティ――その普及の課題と展望


松原 聡 (会員、東洋大学副学長・経済学部教授)


 2017年度より、出版アクセシビリティ研究部会が新たに発足した。その記念すべき第1回例会は、東洋大学の松原聡会員を発表者として、2017年6月19日(月)の18時半より開催された。松原会員は、2017年1月に東洋大学出版会より『電子書籍アクセシビリティの研究:視覚障害者等への対応からユニバーサルデザインへ』を出版されており(電子書籍版もKindle Storeで販売されており、iOS、AndroidのOSの支援機能を用いてTTSでの音声読み上げが可能)、当日は同書の内容をふまえながら発表された。以下、松原会員の発表の概要である。
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 視覚障害者や老眼の進行などにより紙の書籍の読書が困難になった人にとって、アクセシブルな電子書籍への期待は大きなものがある。アクセシブルな電子書籍であれば、音声読み上げ、文字拡大・リフローなどが可能だからである。ところが、フィックス型の電子書籍が多い現状では、これらのアクセシビリティ機能を十分に活かせる状況とはなっていない。
 アクセシブルな電子書籍の出版・流通の拡大に向けては、さまざまな課題が存在するが、主なものを挙げる。1つには、電子書籍そのものに対するネガティブな観念である。紙の書籍でなければ本ではないという観念がまだまだ根強い。2つには、出版関係者のアクセシビリティに対する理解の不十分さである。障害者などの読書の権利を守る技術的な基盤(EPUBなど)はすでにできている。3つには、出版プロセスにムダが多いことである。紙の書籍の出版プロセスはすでにデジタル化されており、電子書籍の制作は容易なはずだが、実際には“紙の書籍→OCR→デジタル(電子書籍)”となっている。そのため、コストと時間がかかり過ぎている。“紙の書籍→OCR→デジタル(電子書籍)”というムダを省き、はじめからアクセシブルな電子書籍を作るプロセスへの見直しが必要である。4つには、TTSによる音声読み上げの誤読である。誤読に対しては、SSML(音声合成マーク付け言語)の実装や編集上の工夫(この点は、『電子書籍アクセシビリティの研究:視覚障害者等への対応からユニバーサルデザインへ』の電子書籍版の制作にあたって実証的に検討)などで対応できる。最後に5つには、電子書籍の流通プロセスのアクセシビリティである。いまのところ、Kindle Storeであればリフロー型電子書籍の音声読み上げに対応しているが、国内資本の電子書店ではこの点の対応がまだ十分とはいえない。
 いまや、年間売り上げが2000億円に達した電子書籍のすべてに、アクセシビリティ機能が実装されれば、読書に困難のある人の需要にこたえると同時に、さらなる市場の拡大にもつながることが期待される。各方面での検討と対応が急がれる。
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 松原会員の発表後、参加者をまじえての活発な質疑応答が行われた。また、今後の部会で取り上げて欲しい発表テーマについても参加者から多くの意見が寄せられた。第2回例会は、2017年秋ごろの開催を予定している。

会 場: 専修大学大学院法学研究科(神田キャンパス7号館)
参加者: 17名(会員5名、一般12名)

(文責:野口武悟)