「絵本ナビ」のこれまでとこれからに見る
「絵本のデジタル化」の最前線
金柿秀幸 (株式会社絵本ナビ 代表取締役社長)
出版デジタル研究部会は,2017年9月29日、絵本の総合プラットフォームである「絵本ナビ」のビジネスモデルをテーマとした研究部会を開催
タイトルは、「「絵本ナビ」のこれまでとこれからに見る「絵本のデジタル化」の最前線」。絵本ナビの金柿秀幸社長を招いて、講演と討論を行った。会場は日本大学法学部三崎町キャンパス10号館。30名(会員18名、非会員12名)が参加し、ネットメディアである絵本ナビが出版活動にはたしている役割、絵本市場におけるデジタル版の存在意義や今後の展望などについて議論が行われた。
絵本ナビは、2001年の創業。現在では110社以上の出版社が参加する、絵本の有力なプロモーション基盤となっている。1年間にサイトを訪れる子育て層の利用者数(ユニークビジター数)は1000万を超え、絵本情報の人気メディアでもある。
15年以上もの活動蓄積により、絵本に関する情報蓄積は膨大なものとなっている。6万5000タイトルの作品紹介データ、200件以上集めた取材記事などが揃う。
絵本ナビならではのコンテンツが、創業以来蓄積した35万件もの読者レビューである。絵本ナビは投稿レビューをすべてチェックしてから掲載し、「絵本選びに役立つレビュー」が集まるようにしている。掲載レビューのセレクトする作業を続ける中で、絵本を大事にするコメントが集まる独特のコミュニティ形成も行われたという。
蓄積されたレビューは、電子書店や出版社の販促に活用されるほか、取次経由で書店にも配られ、リアル書店の品ぞろえの情報源や店頭での販促ツールとして活用されているという。
絵本ナビのもうひとつの特長は絵本デジタル版サービスが充実している点だ。絵本では無料の「絵本の全文試し読みサービス」と、有料の「絵本読み放題サービス」を展開中。
「全文試し読み」は約2000タイトルの絵本を一人1回限り閲覧可能とするもので7年ほど前に開始したもの。「絵本読み放題サービス」は200タイトルほどの作品が入れ替わりで読み放題となるサービスとして2016年2月にスタートした。
「全文試し読み」は、「子連れで本屋に行って絵本を選ぶのは大変」といったニーズに対応し、親の絵本選びをサポートするために始めたもの。トライアル企画の時は、試し読みコンテンツを掲載した絵本が平均でそれまでの4倍売れるなどの販促効果があったという。
デジタル版がタダで読めるのに、売れる理由について金柿社長は、「絵本は中身を読まずに買わないものであり、子供と一緒に何度も読むものだから」という。このサービスでデジタル版の蓄積があったおかげで、読み放題サービスも企画後すぐに立ちあげることができたとしている。
このほか、2017年1月からは「学習マンガ」の読み放題サービスを、6月からは絵本の「読み聞かせ」サービスも展開するなどデジタルサービスを拡充中だ。
金柿社長からはその後「絵本を買う」行為のメカニズムについての説明があり、玩具や文具まで含めた周辺市場まで取り込むビジネスモデルの重要性が指摘。最後に児童向けデジタルコンテンツ浸透に関する展望について考えが示され、終了した。
異業種からの参入組ならではの視点で、絵本市場の課題を明解に分析。紙とデジタルがともに成長する出版ビジネスの方向を指し示す、示唆を得られた研究部会であった。
日時: 2017年9月29日(金) 18時30分~20時30分
会場: 日本大学法学部三崎町キャンパス 10号館9階 1091講堂
参加者: 30名(会員18名、一般12名)
(文責:堀 鉄彦)