小説投稿サイト運営者から見た「ストーリー」の現在と未来 萩原猛 (2016年10月18日)

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■出版デジタル研究部会 開催要旨(2016年10月18日)


大手出版社が小説投稿サイトを運営して学んだこと
「カクヨム」編集長が語る、これからの「出版」「編集」の姿


萩原猛
(株式会社KADOKAWAエンタテインメントノベル局カクヨム編集部 編集長・カドカワBOOKS編集部 編集長)


 出版デジタル研究部会は,2016年10月18日、「小説投稿サイト」をテーマとした研究部会を開催した。タイトルは、「大手出版社が小説投稿サイトを運営して学んだこと 『カクヨム』編集長が語る、これからの『出版』『編集』の姿」。講師に、KADOKAWAエンタテインメントノベル局カクヨム編集部・編集長(カドカワBOOKS編集部 編集長を兼務)の萩原猛氏を招き、講演と討論を行った。会場は日本大学法学部三崎町キャンパス10号館、会員、非会員、学生を含めて43名が参加した。
 「小説家になろう」「ハーメルン」「アルファポリス」など、小説投稿サイトが隆盛を極め、ライトノベルでは、こうしたサイト出身の作家や作品(「WEB小説」と呼ばれる)が各種売上ランキングを席巻する中、KADOKAWAは、2016年2月(2015年12月にプレオープン)に大手出版社として初めてこの分野に本格進出した。名称は「カクヨム」。出版社のKADOKAWAと、IT企業のはてなの共同開発という取り合わせの妙もあり、当初から業界内外の大きな注目を集めている。
 本研究部会は、著者と読者が直接つながる小説投稿サイトという新しい媒体と、そこで展開されるWEB小説という新しい物語の潮流が出版の何を変えつつあるのかを当事者に語ってもらうという趣旨で開催された。
 冒頭、萩原氏より、カクヨムの基本コンセプトや機能の紹介があった。カクヨムは、「小説を中心とした新しいIPを生み出し、拡散していくことができる場」を目指し、「書ける」「読める」「伝えられる」の三つを基本コンセプトとしている。
 「書ける」については、ジャンルを選び、キャッチコピーを書き、紹介文を入れ、本文を書く、という単純なステップで投稿ができる。キャッチコピーと紹介文を必須としたのは、編集者としての経験を通じて、キャッチコピー(帯コピー)や紹介文がうまく書けているかどうかで面白い物語かどうかがほぼわかる、という判断から。また表紙を入れなかったのは、物語そのものの魅力を前面に押し出したかったから、とのこと。
 「読める」については、競合サイトが「書く」機能に特化しているのに対し、「読む」ための専用アプリをリリースした点を強調した。
 「伝えられる」については、レビュー機能の実装の仕方を工夫することで、書き手の意欲をうまく引き出すようにしているとのこと。たとえば、評価の星の数は1~3に設定、星1つでもプラス評価になるという仕組み。基本的にレビューは作品を褒めるためのもの、という思想になっている。
 発表時点の登録ユーザー数は約9万人、投稿作品数は5.8万、投稿エピソード数は31万以上あるとのこと。ユーザーの男女比は3対1。年齢層は、最も多いのが25~34歳、次が18~21歳で、この「若年層が多い」のが他の小説投稿サイトとの違いではないか、という。
 各種コンテストを精力的に実施しており、2015年末~2016年2月末までに募集した「第1回カクヨムWeb[TH1]小説コンテスト」は応募総数5,588点、7つの部門で大賞を授与した。大賞19点を含め26点がすでに書籍化されており、予定を超える書籍化を達成しているとのこと(数字は発表時点)。
 会の後半では、萩原氏に対して「Web小説と紙の小説にはどのような違いがあるか」「読者と著者が直接つながる時代に編集者の役割はどうなっていくのか」「これからの『本』はどうなるのか」などといった質問が投げかけられ、それらに対して非常に示唆に富むご回答を多数いただいた。
 小説投稿サイトとWEB小説は、「小説」「作品」「編集」「編集者」という概念に根本的な変革を迫りつつある。そのことを確認できた研究部会であった。
(文責:林 智彦)