子どもの本のいま ―― 保育の現場から  江草元治 (2006年4月26日)

■ 関西部会   発表要旨 (2006年4月26日)

子どもの本のいま ―― 保育の現場から
(江草元治氏・子どもの本専門店「ジオジオ」店主)

 子どもの本屋を20年間やってきて昨年暮れに店舗を閉めた。しかし学校での選書会とブッククラブは今も続けている。もともと店舗は小さかったので商売上は店頭の販売よりも外販が中心だった。ブッククラブは他の本屋でもやっているが,「ジオジオ」ではジオジオが1人1人に向けて選んだ本を毎月会員の自宅に送っている。現在,会員は数百名程度である。兵庫県加古川市は人口25,6万人で,「ジオジオ」は駅から離れている。ショッピングセンターの「サティ」が近くにあるが,そこに来る人たちが「ジオジオ」に来るのは難しい。
 学校の選書会とは,体育館に本を並べて生徒たちがみずから選ぶものである。ふつう本は学校の先生が選んでいるが,どうしても教育目的になって面白い本が図書室にないことになる。選書会は本屋にとっては手間がかかり大変なことだが,学校と子どもたちには好評である。
 選書会で学校に行くが,だいたい生徒数400人くらいの学校が多い。選書会では低学年,中学年,高学年で分かれることが多い。子どもが喜ぶのは自分で選ぶことができるということ。普通は小学生が学校に入れる本を選ぶことはできない。結局,大人が選んでいる。しかし,ほんとうは本というものは探すことにも楽しみがある。なにか面白そうだという嗅覚があり,うまくいったり失敗したりしながら,面白い本に出会っていくものだ。子どもたちは意外とそういう体験をしていない。体育館に本を並べると生徒たちが自分が入れてほしいリクエストを書いて,順位が上の方から買うことになる。予算があるから,すべてではないにしろ,生徒たちは好きに買うことができる。長いところでは14,5年やっている。図書室に子どもたちが来てくれる。自分の選んだ本を見つけるだけでなくて,友達の選んだ本も見つける。子どもたちは情報が早い。あの本は面白いとなると,みんなで借りる。図書室の利用が増える。そこから本の面白さみたいなものに何人か惹かれてくれればいいではないかという感じで,選書会を続けている。じつは本屋にとっては選書会はつらい。選書の間に生徒が本を落としたりしていためるとつらい。本のカバーは破られるのではずす。腰巻ははずす。仕掛け絵本は間違いなく折れる。20-30校回って売れればいいが,5巻シリーズの1セットを5巻とも置くのか,1巻だけ置くか悩む。
 書店の内情から言うと学校に本を納入するときに一番強いのは教科書を扱っている書店。今でこそ20年経っているが,当初は新参者だった。5%,7%というような値引きを要求される。値引きしなくてもいい付加価値をつけようと選書会の企画をした。選書会は値引きしなくても何も言われない。それだけ手間がかかっているが。学校に本を納入しようとするのはなかなか難しい。今,加古川市では30万から50万円の小学校の図書予算。
 そういう意味では本屋にとっては選書会はありがたい。

 今日のテーマの一つは保育の現場ということだが,私がしているのは保育士をめざす大学生たちに絵本について教えることと,もう一つは養護学校で絵本の読み聞かせをすることである。
 保育士をめざす大学生に絵本のことを話すようになったのは,直接的に大学からではない。加古川には兵庫大学・短期大学部・保育科があり,そこに保育士の卵たちがいる。「ジオジオ」によく来てくれるそこの学生さんが自分は絵本のことをよく知らないという。たいてい小学校の3,4年生から中学生,高校生とどんどん絵本から遠ざかるものである。一方,短期大学は2年間に保育原理だとかカリキュラムがいっぱいあって,絵本について学ぶ時間がない。そこで昨年,学生が学校の教室を借りて一種の自主講座のような形で私を講師に絵本について学ぶようなことになった。その話が『朝日新聞』東播版に掲載されて,うちでもやってくれと頌栄短期大学で「言語」という講義の中で絵本を教える非常勤講師として教えることになった。「絵本学」というものではなくて,保育士が絵本を楽しんで読めるという授業を4月17日からスタートしている。
 第1回の授業では絵本には歴史があるという話から始めた。過去に出版されたもので今も読めるものというのは意外と少ないので,今も読める過去の絵本を取り上げた。第2回目の授業は5月だが,ここ20年くらいの今の絵本のことを紹介しようと思っている。
 もう一つは西播テクノポリスにある西はりま擁護学校が昨年開校し,そこで私は養護学校の先生を対象に絵本について教えることと,生徒たちに絵本を読むことの2つの講師を依頼された。養護学校では絵本を教科書として使っている。教科書として五味太郎の本が使われていたりする。「シャッフル」といって言語の理解度,身体的機能とかによって何組かに分かれ,動物たちが登場して食べ物を食べる絵本を使うなど,実利的な絵本の使い方をしている。しかし,私たちは自分たちの子どもたちに絵本を与えるときに,この本から何かを学びなさいとは言わない。楽しみとしての絵本,読書の楽しみでやっている。養護学校では楽しみではなくて,何かのためにやっているというところがある。そこで私は絵本を子どもたちの前でどう読むか,は声の大小,高低などを先生がたに実際に見てもらいながら話す。絵本は読んでもらう楽しみがある。自分で読むこととは違った楽しみがある。
 私のように男で絵本を読み聞かせる例は意外と少ない。一般的に「絵本」「子ども」,そして必ず次は「女性」となる。家ではお母さん,小学校の低学年などで絵本読んでくれるのは女性の先生。僕はおっさんとして(笑い)珍しがられて得をしていると思う。
以上の江草氏の発表の後,質疑応答に移り,絵本の読み聞かせのときの小道具について,絵本の定義,方言が入っている場合の読み方,50周年を迎えた福音館書店の『月刊絵本』に対する評価,選書会における生徒の反応,かつての伝記や総ルビが振られた子ども向け読み物の復権,これまで開催してきた児童文学の作家の講演会について,など多様な質問があり,活発な会となり,場所を移しての懇親会も盛況であった。
(文責・湯浅俊彦)