内地/外地をまたぐ書籍流通史をめざして 日比嘉高 (2017年10月21日開催)

■ 日本出版学会 2017年度第4回(通算第102回)関西部会 開催要旨(2017年10月21日開催)

内地/外地をまたぐ書籍流通史をめざして
――転移・国策・ネットワーク

日比嘉高 (会員、名古屋大学大学院人文学研究科)

 今回の報告では、〈第二次世界大戦以前における内地外地をまたいだ書物の流通ネットワークの歴史を考える〉という発表者の取り組む課題を概観しつつ、そのうち3点について掘りさげた発表を行った。まず、研究プロジェクトの全体像について次のように整理した。方法的特徴として内地外地を結ぶ広域的な書物流通と外地小売書店の役割への着目を行っていること、また出版史研究への寄与としては、外地の書店史がない(古書店はあり)、外地をも含む書物流通史がないという状況のなかでの実証的研究であること、そして植民地文化研究、文学研究への寄与としては、グローバルな知的基盤の形成を考えるという意義があること、である。このあと、本研究が用いている資料について、当事者資料、同時代関連資料、隣接資料、研究資料に分けて短く説明を行った。
 具体的な研究の例としては、A.『全国書籍商総覧』から見えるもの、B.ネットワーク論と空間論、C.出版〈受難史〉を越える――国家統制と財界の「自主性」、の3点について報告を行った。『全国書籍商総覧』については、(1)各地の書籍雑誌商組合の組合略史およびその組合員達の名鑑が掲載されていること、(2)各書店について店主の経歴から店の歴史、売上、取引先、顧客など多岐に及ぶ内容が掲載されていることがとりわけ注目され、外地を含む当時の書店の実態をうかがう恰好の資料であることを述べた。また外地書店の雑誌別売上高、売上数や、外地書店の取引先の取次店についても、この資料から判明することがあるとした。B.ネットワーク論と空間論では、この研究の理論的な枠組みについて、ポイントを紹介した。空間とネットワークの問題として考えるということ、流通機構の性格を決める要因として書物のもつ性質・役割を考えるということ、知と想像力の問題として考えるということ、権力と統御のあり方を考えるについて、それぞれ略述した。最後に、C.出版〈受難史〉を越える――国家統制と財界の「自主性」として、1940年代の出版統制の問題に触れた。植民地帝国日本のすべてを巻き込んだ、包括的で徹底的な総動員体制という全体図のなかにおいて、出版統制(「出版新体制」)はどのように位置づけられるのか、さらにいえば国家統制と民業である出版業・取次業・小売業との関係を、どのような構図で語るべきなのかという問いを考えるための作業である。
 なおこの研究はJSPS科研費(JP15K02244)によるものである。

日時: 2017年10月21日(土)14時00分~16時00分
会場: 奈良女子大学文学系S棟2階S227教室
参加者:13名(会員8名、一般5名)

(文責:日比嘉高)