『日本の出版物流通システム――取次と書店の関係から読み解く』の問題意識と若干の事例紹介 秦洋二 (2015年8月25日)

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■関西部会 発表要旨(2015年8月25日)


『日本の出版物流通システム――取次と書店の関係から読み解く』の問題意識と若干の事例紹介


秦 洋二
(流通科学大学商学部)


 本発表は,2015年3月に上梓した拙著の内容をもとにしたものである。本書の目的は日本の出版物流通業を事例として,流通システムのうちにおいて構築される企業間の関係性が,その流通システムの空間構造に及ぼす影響について,空間的視点から分析することにある。本書では,同一の流通チャネル内における生産者,卸売業者,小売業者間の関係を「垂直的企業間関係」と呼んでいる。この企業間の関係性という一見非空間的な要素が,実際には流通システムの空間構造に強い影響力を示していることを,出版物流通業を事例にして明らかにした。
 従来の研究では,垂直的に機能分化した流通チャネルの各段階を水平的に捉えたものが中心であり,また流通チャネルの垂直的構造が問題となる場合には,当該チャネルにおける情報・物的フローの構造に関心が集まっていた。しかし,本書は流通システムを一つのシステムとして機能させる企業間の相互連携や,流通システム内におけるパワーを巡って争う企業間の対立関係,さらにはそれらによって生じる企業同士の相互作用などが,流通システムの空間構造に及ぼす影響を考察した点に特徴があると言える。
 本書では具体的な事例として,取次会社が構築した物流システムや書店の立地パターンなどに注目している。コンビニなど小売業が主体となって構築した物流システムは,リードタイムの厳守を最優先するため,物流拠点の配置もリードタイムとの関係から一定の制約を受けるが,雑誌物流システムでは積載効率や,同一雑誌発売日の地域内統一を優先して物流施設配置や配送ルートが決められているため,結果としてリードタイムはある程度犠牲にならざるを得ない状況がある。換言すれば,小売業主体の物流システムでは時間が空間を規定しており,出版物の物流システムは空間が時間を規定していると言うことが出来るだろう。また,帳合の異同が書店チェーンの店舗立地にも一定の影響を及ぼしていること,具体的には同一帳合のチェーン同士では競争回避的な立地傾向が認められるが,帳合が異なる場合には,相対的に競争的な傾向が強まっていたことなどを明らかにした。
 このように,垂直的企業間関係は当該チャネル内の企業の活動に様々な影響を与えており,企業の活動の結果である流通システムの空間構造を考える上で重要な意味を持っていることが示されたと言えよう。
(文責:秦 洋二)