週刊誌「サンデー毎日」にみる近現代のたばこ表現の変遷:メディアと社会事象 茨木正治・中村健 (2012年12月6日)

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関西部会 発表要旨(2012年12月6日)


週刊誌「サンデー毎日」にみる近現代のたばこ表現の変遷:メディアと社会事象


代表報告者:茨木正治 (東京情報大学)
共同報告者:中村 健 (大阪市立大学)


1 はじめに
 メディアからの社会・文化事象の伝達・受容は,受け手の情報環境に左右されることが知られている。「たばこ」は文学や映画などでよく出てくる社会事象であり,大衆文化の受容器とも称された週刊誌の諸情報(記事,小説,広告,マンガなど)における「たばこ」表現に着目し,受容の回路を考察するものである。
 週刊誌『サンデー毎日』(1922年創刊)は戦前から大衆文芸および文化の記事を中心に構成されており,その小説,記事,論説,写真,漫画といったテクスト内情報におけるたばこ描写・表現と,掲載された広告およびたばこ広告を内容分析し,その比較および相互連関を通じて,たばこの受容環境の変化を推論し,メディアと社会事象に関する情報の受容の変遷を考察した。
 分析にあたっては主に戦前期(1922年から1948年)を中村が,1995年から現在を茨木と分担して行った。

1.1 戦前期記事の分析方法(担当:中村健)
 中村は戦前期の同誌のたばこに関する記事の分析を行った。記事収集にあたってたばこだけでなく比較のために嗜好品という視点から,酒,茶(日本茶・紅茶),珈琲の記事も同時に収集した。まず,創刊から1945年までは山川恭子編集『戦前期『サンデー毎日』総目次』上・中・下(ゆまに書房)を使い,記事名から煙草および嗜好品に関するものを選んだ。その際,所属の大阪市立大学学術情報総合センター所蔵の同誌で内容を確認し該当しないと判断したものおよび欠号などのため現物を確認できなかったものは省いた。続いて,総目次からは抽出できない挿絵,カット,広告,記事内容における嗜好品の使用頻度を調べるため,同センター所蔵の同誌を一頁ごと調べ,創刊7年目にあたる1928年3月分までと1945年から1948年8月まで約490件,広告約60件,計550件を集めた。記事を嗜好品毎(煙草,酒,茶,珈琲,紅茶),記事種別(記事,挿絵,カット,写真など),内容分類として山川恭子氏が『サンデー毎日』を分析する際に用いた15の記事分類をもとに筆者自身が追加した補助分類を加えた指標を作成し各記事にあてはめ分析した。

1.2 戦前期の分析結果と考察
 分析により以下の結果を得た。
・文芸記事における描写や挿絵,カット,コマ絵に出てくる意味は,「リラックス」「気分転換」など嗜好品と同様なもので,誌面やストーリー展開におけるリラックス,気分転換効果を有している。また,登場回数は現代小説には多く,時代小説には少なかった。
・実用記事において,煙草は酒や茶といった嗜好品に比べて日本文化とのつながりうすいため記事のバリエーションが狭い。一方で,読者は煙草の箱に関しては強い関心をもっていた。
・健康の視点からは禁煙,喫煙は混在するが,医学,女性,家庭の視点からは禁煙の度合いが強くなる。
・創刊から7年間において煙草の広告は見つけられなかった。

2.1 1995年以降の分析(担当:茨木正治)
 茨木は,1995年から2012年に発行された『サンデー毎日』に掲載された,「たばこ表現」(①たばこそのもの,②たばこに関連した事象・事物・人物およびその行為)についての画像情報(記事,論説,文芸等)と文字情報(広告,写真,マンガ)の分析を行った。本報告では,画像情報の分析結果を報告した。測定方法」は,個別分析単位(広告は1商品ごと,写真は1枚ごと,漫画は1作品ごとと1コマごと)をもとに「たばこ表現」が出現する頻度を計測した。その際,時系列と登場人物ないし「たばこ表現」が登場する場合の「環境」(場面,対人関係,社会的事件・状況など)に着目して整理・分類した。なお,画像分析には解釈の必要に応じ図像学・図像解釈学に基づく構図や構成要素の分析を「レトリック分析」として,またマンガを分析する際には,ストーリー展開の理解に「物語(構造)分析」を用いた。

2.2 1995年以降の分析結果と考察
 広告については,2002年から2006年には,たばこ広告が1件も見出せなかったことが特徴としてあげられる。たばこ規制や価格の値上げ,自治体の禁煙条例等の社会的背景も時期として差異があり十分な証拠とはなりにくい。出版社とスポンサーとの関係についても,広告非掲載期前後(1995年~2001年と2007年~2012年)の発行部数を比較したところ,2001年に約10万部,2006年に7万部と減少したものの,2012年に11万部と回復している。このことからスポンサーの影響は推定されたが,たばこ広告の「消失」原因とはならない。
 そこで,たばこ広告の内容に非掲載前と後で違いがあるかどうかを調べたところ2つの特徴が見出せた。1つは,キャッチコピーの変化である。たばこの味から環境・人間関係への配慮といった喫煙主体から喫煙主体を取り巻く「環境」への配慮にコピー内容が変化していた。もう1点は広告登場人物の変化である。非掲載以前は,俳優やタレントを起用していたのが,歴史上の人物や一般人といった特定化から非特定化(一般化)の傾向が見られた。有名人の好イメージをたばこに投影するという積極的な姿勢から,たばこのイメージを有名人が回避したことによる消極的姿勢が広告に見られると考えられる。
 これらから,02年から06年の「広告非掲載」には,健康問題に端を発するたばこ規制,禁煙志向が,個人の責任に帰属しつつあるのではないかと推測する。なぜなら,07年以降のキャッチコピーが,喫煙時の他者やその集団といった喫煙環境への配慮に焦点化したことは健康問題を無視できないと広告主が判断していることの現れである。そして,喫煙者の嗜好欲求と周囲の要求を同時に満たすためには,無煙たばこを広告で登場させて,喫煙者の自己責任と環境配慮を示すしかなかったのであろう。このことについては,他の週刊誌と比較する必要がある。
 写真については,焦点が絞れなかった。少なくとも「たばこ」については記事やコラムとの関連で考察すべきものであろう。
 マンガについては,2010年以降「たばこ表現」は登場していない。たばこ行為そのものが作品主題となるものは少なく,大半が人物・主題説明の道具として用いられていた。「たばこ表現」の主体は,有名人では個人の,一般人では職業ステレオタイプが反映されていた。喫煙場所も一般人喫煙に限定したところは,喫茶店と酒場が半数以上を占め,職業に規定されることが推定された。
 「たばこ」表現に関して,広告は07年以降,喫煙環境への意識を意識していること,マンガについては,職業・個人ステレオタイプ化が進み,10年以降には表現そのものがないことを鑑みると,たばこ行為についての理解,認知,受容といった「文化」の範囲が縮小し,「たばこ文化」が「島宇宙」化しつつあるとみられる。

※なおこのプロジェクトは,たばこ総合研究センターの2012(平成24)年度の研究助成を受けたものである。