公共図書館における電子書籍サービス  永田薫・花田一郎 (2011年1月27日)

■関西部会 発表要旨(2011年1月27日)

公共図書館における電子書籍サービス
――大日本印刷・CHIグループによる電子図書館の構築支援サービスの取り組み

 永田    薫(図書館流通センター)
 花田一郎(大日本印刷)

 2011年1月8日から堺市立中央図書館が電子書籍の貸出サービスを開始した。この構築支援を行った大日本印刷・CHIグループの永田薫氏(図書館流通センター),花田一郎氏(大日本印刷)に「公共図書館における電子書籍サービス」というテーマでご発表をいただいた。
 まず永田氏から出版業界について,その概要として出版物流通のしくみ,出版物販売金額,返品率,発行・販売部数,書籍新刊点数・雑誌銘柄数・書籍平均単価,出版社数の推移,書店の現状について詳細な解説があった。そして日本の図書館ルート,日本の電子書籍市場,米国の電子書籍市場,日本における公共図書館の館数,蔵書冊数,来館者数,貸出冊数や図書費,さらに公共図書館でのPCサービスの内容(OPAC,データベース,広報・新着案内,レファレンスなど)についても具体的な資料が提示された。
 このような現状認識の上に電子書籍への図書館の関心について,以下の10種の分類を示した。
・重版未定本・絶版本など非流通図書
・購入対象外資料(資格や問題集など書込型書籍)
・マルチメディア型(音声・映像・双方向)書籍
・ボーンデジタル書籍
・地域資料,歴史史料,行政資料
・貴重資料,閉架所蔵資料
・個人出版物
・外国語資料
・地方新聞,海外の新聞
・雑誌最新号・バックナンバー
 図書館の資料類がデジタル化されることによって,「誰でも,いつでも,どこでも,情報にアクセス可能」「365日休館日なし,24時間提供サービス」が図書館において可能となり,地域の遠隔利用者,交通不便地域利用者や障害者(読上げ機能等),高齢者(読みやすいフォント,文字サイズ),非来館サービス,アウトリーチサービス,広域サービスが可能となるのである。
 電子書籍は「モノから無形のデータへ」の移行をもたらし,これは従来の図書館業務の資料受入・登録,配架,貸出・返却,返却チェック,再配架,蔵書点検,装備,修理,弁償,除籍などを不要とする。
 続いて,花田氏から1月8日から本稼働した堺市立中央図書館の実際のサイトを実演しながらの解説があった。文字サイズやタテ・ヨコを変えることや,2ページ表記を1ページにすること,さらにTOEIC問題集などふつうはできない書き込みが可能な教育学習支援サービスが可能となることなど,実際にデモンストレーションを行っていただいた。コピー,印刷,Screen Shotが利用できないDRMについても解説があった。
 また図書館向け専用コンテンツとして「図書館で,写真で始める読書」の紹介があった。これはAP通信社の膨大な報道資料と図書館資料を組み合わせることによって,興味のある写真を選ぶと関連ワード,関連項目テキストを連想検索にかけて蔵書情報とマッチングさせて最終的に紙の本でも電子書籍でも借りることが可能な試みである。
 2010年は「電子書籍元年」と呼ばれたが,公共図書館における電子書籍の取り扱いについては今後どのように進展していくのか明確ではない。今後このような電子図書館構築支援サービスが定着していくとき,出版産業との関係はどうなっていくのか,興味深いテーマである。
 発表の後に活発な質疑応答が行われ,参加者はゲストのお二人を除いて29名であった。
(文責:湯浅俊彦・関西部会長)